akam 厄介な恋人1 2026.4.23
自分の二次創作中の赤安について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています。無断転載等はおやめください。
鍋の底で炒めた玉ねぎがゆっくりと色を深めていく。木べらで返すたび、甘く焦げた匂いが立ち上り、スパイスの粒が油の中で弾ける。
降谷は火加減を確かめ、蓋をずらして蒸気を逃がした。時計は十九時を少し回っている。部屋は整い、食器はすでに二枚分出してあったが、そのことに自分では気づいていないふりをしている。
そのときふとインターホンが鳴り、現実に引き戻された。扉を開けると風見が立っていた。スーツの襟元はきちんと整い、いつも通りの距離感を保った顔だ。
「すみません、近くを通ったので寄らせていただきました。先日の合同作戦で使用した国外回線の通信ログですが、保存区分を国際協力案件に変更する必要が出ました。取り急ぎ承認をお願いします」
降谷は短く頷く。
「上がれ。形式上の話だろう」
玄関の冷気が流れ込み、すぐに閉じられる。
座卓に通し、茶を入れた湯呑を置く。風見は座り、報告を始める。言葉は淡々としている。降谷は聞きながら、時折キッチンへ視線を向ける。鍋は弱火で待機している。
三日前から、自分も同じように何かを待機させたままだと、意識の端で思う。
「以上です。修正案はこちらに」
書類を差し出され、署名を入れる。仕事はすぐ終わった。だが風見が帰ろうと立ち上がる前に、降谷が口を開く。
「……三日前の朝だ」
唐突な静寂が落ちる。
「起きたら、いなかった。ベッドの隣が空だった」
言葉に余計な感情は乗せない。ただ事実の報告のように。風見は湯呑を持つ手を止める。その生々しい情報は業務外だ。
「赤井さんが、ですか」
「他に誰がいる」
降谷は視線を落とす。シーツの冷えた感触がよみがえる。
三日前。
風見は、ここのところ降谷の視線がわずかに散る瞬間を思い出した。会議中、呼びかけに半拍遅れたこと。原因はこれかと理解するが、顔には出さない。
「連絡は」
「ない。チャットは既読もつかない。返信もない。理由は不明だ。いつものことでもある」
どことなく口をとがらせて言いながら、テーブルの縁を指でなぞる。
「だが来日中は違う。やりとりはまあまあスムーズだった。夕食の要不要くらいは返ってきた」
風見は実務的に返す。
「FBIです。急な招集や通信制限はあり得ます」
「米国にいるなら分かる」
降谷の声は低い。
「だがここで過ごしていて、返信がない」
風見は茶を一口飲む。
「夕食は、普段から各自にすればいいのでは?」
「いつ帰ってくるのかが分かれば、こちらもやきもきしない」
「人のことは言えません。降谷さんも仕事柄、帰宅時間を知らせないことはありますよね」
淡々とした反論に、降谷は小さく舌打ちする。
「自分ばかり相手のことを気にしていて嫌になる」
「……もう気にしなければいいのでは……」
沈黙が落ちる。換気扇の音が、やけに遠い。
「……人を好きになるというのは面倒くさいことだな」
独白は、任務の反省会のように平板だ。
「自分が弱くなった気がする」
その言葉に、風見は首を傾ける。
「それは弱さでしょうか。大切な人を待つことが、直ちに弱さに直結するとは思いません」
「思考が奪われるのが嫌なんだ」
「幸せなことではありませんか。私も推し活をしているときは、その人のことで頭がいっぱいになります。幸せです」
降谷は首を振る。
「少し違う気がする」
「愛するものや好きなものがあるのは幸せなことです。ましてや、その人をいつも優しく想う心があるというのは、少なくとも想われている側は幸せな存在になる」
降谷は低く唸る。言葉の正しさと、自分の感覚のずれがうまく噛み合わないといった様子だが、言葉にならないらしい。
そのとき、玄関の鍵が回る音がした。二人の視線が揃う。
扉が開き、赤井が入ってくる。ジャケットを脱ぎながら一瞬足を止める。
「……風見くん?」
空気を読む目だ。風見はとっさに立ち上がる。
「お邪魔して――」
その前にクッションが飛んだ。赤井は反射的に受け止める。
「受けるな! ちゃんと顔面にぶつかれ」
降谷の声は理不尽だが、どこか安堵が混じっているのを風見は聞き逃さない。
赤井は苦笑し、風見に目を向けた。
「ちょっと大変な状況のようだが」
風見はため息をつく。
「いい迷惑です」
鞄を手にし、立ち上がる。
「お邪魔のようですから帰ります」
「帰らなくていい。風見も夕食を食べていけ」
「え」
風見と赤井の声が重なる。気まずさが膨らむ。
降谷は赤井を睨んだ。
「いいよな?」
赤井は肩をすくめる。
「君が望むなら。たまには三人で」
自分に向けられる降谷の鋭い眼光に、風見はため息をつきながら天井を仰ぐ。
「……わかりました。自分は降谷さんの言いなりですから」
しかし、キッチンに戻る降谷の背中は、三日前よりもどこか軽くなっていた。
鍋の蓋を開けると、カレーの香りが強く広がる。ダイニングテーブルには結局三人分の皿が並ぶ。
本当は帰りたいが、食費のことが思考をよぎると甘えてもいいかという気持ちが芽生え、風見は素直に皿の前に座った。赤井もうまそうだなと言いながらスプーンを取る。
「ところで降谷さん」
「何だ」
「既読がつかないのは、単に赤井さんが通知を切っていただけでは」
赤井がポケットからスマートフォンを出して、画面を見せる。
「ああ。圏外だった。地下で打ち合わせをしていたからな」
画面には、後から到達した未読の通知がずらりと並んでいる。
風見はスプーンを持ち上げる。
「単なるタイミングの問題です」
赤井は静かに笑う。
「うん、カレーがうまい」
降谷は顔をしかめながら口をとがらせる。
「ずっと地下にいるわけじゃないくせに……」
赤井のこれまでの動向について探る降谷の言葉を聞きながら、スパイスの香り立つ湯気の向こうで、風見は思う。
結局、自分は報告よりも、こちらの方の仕事量が多いのではないか、と。
続き(リンク切れの場合は更新前です。のちに追加します)