二人でシャワーを浴びている間も欲情してしまって大変だったが、明かりを落としたベッドの上では、久々だということもあってか更に濃厚だった。一見淡泊なロランはもしかしてむっつりなのかもしれないと思いつつも、口に出したら怖いことになりそうなので心の中に留めておく。
 クリスもだいぶ行為に慣れてきたため、積極的にロランを求めるようになっている。それが彼にはたまらないらしく、時々、この従順すぎるほど従順なエルフの男が理性を失ったかのように軽く歯を立てたり手を拘束したりするようになった。クリスもまたそのギャップに打ち震えて、彼の愛撫を余すところなく受け入れてしまう。

「声を出してください、クリス様」

 最中にも敬語を使い続け、様付けをしてくる騎士にいつも苦笑していたが、彼らしくて好きだったので咎めることはしなかった。

「いやだ……恥ずかしい」
「どうして」

 だってここは城のあなたの部屋ではない、だから少し声を出したって誰にも聞かれたりしないと耳元で囁くロランに、クリスはたまらなくなって顔を背ける。城の自室でするときは、万一誰かが廊下を歩いていたらという懸念があり、漏れ出る声を噛み殺すほかないのだ。
 我慢する様も好きだと言っていたくせにと胸中で文句を言った。舌で首すじや鎖骨を舐められ、熱い息が喉から何度も出てくるせいで、音声にはならない。
 自分の中に深く突き刺さっている彼自身を感じつつ、クリスは朧な意識の中で訊いた。

「耳、って」

 顎を舌で辿っていたロランは身を起こし、気怠くなっているらしい体重を支えるために頭をクリスの肩に置いた。

「耳?」

 間近なため、言葉と共に彼の熱っぽい息が喉元にかかる。クリスは生理的な苦しみで涙が出る目を閉じた。

「昼間、の……」
「……ああ」
「耳って、なんのことだ」

 この耳のことか?とクリスは瞼を伏せたまま手を彼の首から頬にかけて撫でつけ、耳に辿り着くとその裏側を指先でそろそろとくすぐった。こそばゆいのか、逃げたそうにロランが身動きする。彼は鎖骨のほか耳も敏感らしい。
 しばらくロランは黙っていたが、不意にクリスの頬に唇を這わせると、耳元までそれを持ってきて呟いた。

「以前、あのエルフの女性が言ったのです」

 ネイという名で呼ばないことは、クリスへの配慮なのだろう。

「人間と、エルフが……」

 そこで彼は言葉を止めた。
 クリスは目を開き、頬に顔を寄せている彼の髪を撫でた。
 予感があった。エルフがそのまま何も言わなかったので、クリスは煮えを切らして口を開く。

「人間とエルフが結ばれたら、という話か?」
「……」
「子どもの耳はどうなるのかと……そういう話なんだな? ……ふふっ」

 声を上げて、クリスは笑った。涙が出ているので泣き笑いの状態だった。
 ロランはクリスの両脇に手をついて、下が繋がったままの身体を起こし、困ったようにクリスを見つめた。疲れからか顔が少し赤みを帯びているが、これには今の出来事のはじらいも含まれているのだろう。つくづく反応が素直で可愛らしい。
 痩けた頬を愛撫しつつ、ネイが自分を気遣ったというのはそういう意味でかと、嫉妬していた自分自身が馬鹿馬鹿しくなって笑い続けた。するとロランはからかわれたと不機嫌になったらしく、腰を使ってぐいと奥深く突いてきた。

「っ、ああ!」

 快楽と共に与えられる強い圧迫感に、思わず声を上げてしまう。クリスの素直な反応に、ロランは不敵な笑みを浮かべる。
 ぐっと広げられたところを何度か突かれ、耐え難くなって両手でシーツを握りしめる。男は深くゆっくりとした動作を止めない。

「ロラ、ン、は」

 そういうつもりではなかったのだが怒らせたのかなと、不安になってクリスは問う。

「考えて、た?」

 だからネイに相談でもしたのだろうか、エルフと人間が結ばれたらどうなるのかと。ネイは、確か人間に育てられたエルフだ。生まれがエルフの元であるロランよりも人の俗世に慣れている。ただの予測にすぎないが、ロランが彼女を相談相手にすることがあっても不思議ではなかった。
 クリスの問いかけに、ロランは動きを少し早めただけで答えなかった。
 私の言葉を聞いて欲しい、無反応だけはやめて欲しいと眉を寄せ、再度クリスは訊く。

「ロ、ラン。わた、し、は」

 快感のための喘ぎにかき消され、上手く言葉が出てこない。ロランは、まるで話を止めさせたがるように反らした喉に唇を当てて吸い上げたり、手で強く胸を揉んだりしてくる。
 気持ちよさと苦しみに何がなんだか分からなくなってきたが、それでも必死に声をしぼり出した。

「わ、た……し。
 まだ……」

 すると男は、なぜか急に動きを止めた。
 何だろう、問いに答えてくれるのだろうかと朧な焦点をようやく合わせて見ると、鳥肌が立つほど真剣な二つの瞳がクリスを凝視していた。
 まだ、と唇の動きだけで、ロランはおうむ返しに言った。クリスはそうだと頷く。

「まだ、だ、め……」
「……まだ……」

 その二語を、彼は小声で繰り返した。どこか呆然としていて、心ここにあらずといった様子だった。
 一体どうしたんだと彼の耳や頬を手のひらで撫でる。すると彼は苦しげに眉を寄せ、まるで泣き出しそうな表情になった。

「ロラン?」

 具合でも悪くなったのだろうか。心配になって呼びかけると、ロランはクリスの唇にキスをして、まるで祈るように額に額を合わせた。

「……私は……」

 呻くような声。

「私は、その言葉だけで……」

 本当に泣いているのかと思うほど、か細く吐かれた彼の言葉の意図がくみ取れず、クリスはますます恐怖を覚える。今までの自分の発言がロランの気に障ったのだろうか? それとも彼を傷つけてしまったのだろうか?
 名を繰り返し呼び、クリスはもっと強く抱いて欲しいという意味を込めてロランの身体にすがりついた。彼はクリスの顔や首に口づけの雨を降らせながらゆるゆると動きを再開し、クリスの湿った肌に大きな手を滑らせる。
 ロランの言葉の続きを聞くことはできなかった。動きはだんだんと激しくなり、クリスは彼の突き上げに応じて悲鳴のように声を上げる。それはひどく人間味を帯びた生々しい行為だったが、まるで清純な祈りのようだとクリスは思った。
 本当に美しく悲しい、二人の長い祈りのようだと。