サンダーソニア   花言葉は「望郷、祈り、共感、祝福」





 我らの恋は 風にさざめく木の葉のよう
 二人そろっておちるなら それでもかまわない





 ゼクセの街はブラス城に比べて騒がしいため、もともと閑静な場所を好む傾向にあるロランは、できることなら行かずに済ませたいと思っているのだが、出張命令となると文句は言えなかった。評議会に提出した書類に不備があり、議員に対してその説明もしなければならず、他の業務でせわしなくしているサロメの代行で自分が赴くことになったのだ。
 ゼクセに着いたのは午後だった。さっさと評議会の用事を終え、「時間が余るだろうから帰り際にどこかに寄ってくればいい」とサロメに言われたことを思い出して行きつけの本屋に寄った。店内をうろついて外に出たとき、聞き覚えのある声に呼び止められてロランは振り返った。そこにいたのは、ハルモニアとの戦が終わってブラス城に戻ってからは久しく会っていない、ビュッデビュッケ城に滞在している際しばしば会話を楽しんでいた同じエルフのネイだった。

「ロランさん、お久しぶりです」

 近づいてくると、人間の女性に比べて彼女はかなり背が高く感じられた。しばらく会わないうちに背が伸びたらしい。エルフという種族はゆっくりと成長していくため、身長も人間に比べて長期間伸び続ける。日常的に腰を屈めなければならないロランにとっては嬉しい限りだ。
 お久しぶりですと驚きを交えて返すと、ネイは優しげに笑った。エルフ特有の色白ですっきりとした顔立ちは、同じ種族のロランからしても相当な美人に見える。彼女に形容詞を付けるとしたら“可愛らしく上品”といったところだろう。

「びっくりしてしまいました、こんなところでロランさんに会うなんて」
「私も驚きました」

 それでもロランの身長には及ばず、ネイは上目遣いでまじまじとロランを見つめた。彼女の水色の髪と濃い橙の瞳は印象に残る。種族に関わらず、一度見たらなかなか忘れられない外見だろう。
 なんでしょうかと首をかしげると、彼女は少し照れたように長い睫毛を上下させた。

「同じエルフの方に会えるのが嬉しくて。身長差もあまり気にならないし」

 旅をしている間に出会う大抵の男性は自分より背が低いのだと、彼女は笑った。ロランもうっすら苦笑する。

「それは私も同じです。ところで、ネイ殿はどうしてゼクセに?」
「ビュッデヒュッケ城で大道芸のお仕事があったんです。シャボンとトッポは向こうにいて、私だけ馬車でここに来たの」
「あなただけ?」
「ええ。色々買いたいものがあって……ロランさんは?」

 自分も仕事のためであると一通り内容を話すと、ネイは両手を合わせて感嘆の溜息をついた。その仕草もしとやかで美しく、いちいち見とれてしまう。ビュッデヒュッケ城にいた頃、自分と関わり合いのない者と必要以上の接触をしなかったロランが、よくネイとは話していたのは、エルフとしてその外見が可憐に思えるからという理由もあった。種族の本能かどうかは知れないが、彼女の容姿にはとても惹かれるのだ。

「すごいですね。ゼクセンのためにそのような難しいことをなさっているなんて……私、政治はさっぱりです」
「好きでやっていますから。
 もしよろしければ、どこかで座ってお話しましょうか」

 ずっと本屋の前で立ちっぱなしでいるのもネイが可哀想であるし、本屋にも迷惑だろう。彼女は頷いて承諾した。