akam Line1 2026.5.26

自分の二次創作中の赤安について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています。無断転載等はおやめください。





降谷は三日まともに眠っていなかった。
公安内部の内偵案件が長引いていた。表向きは小規模な横流し事件だったが、蓋を開ければ複数の組織が絡み、潜入先も二転三転し、現場対応と報告書作成を往復しているうちに時間感覚が曖昧になる。仮眠室で数十分目を閉じるだけの日もあったし、冷めた缶コーヒーだけで半日動くことも珍しくなかった。

風見には何度も止められた。

「少し休んでください」
「顔色が悪いです」
「判断を誤ります」

だが降谷は聞かなかった。
疲れている自覚はあった。集中力が削れている感覚もある。それでも、自分ならまだ動けると思っていた。今までだってそうだった。多少無理をしても、最後には辻褄を合わせられる。限界の手前で踏み止まれる。その自負が、降谷零という人間を長年支えてきた。

だから今回も同じつもりだった。
囮役を自分で引き受けたのも、その延長だ。

人数を増やせば相手に警戒される。現場判断としては間違っていない。危険度は高かったが制御不能な案件ではないし、短時間で終わる見込みもあった。風見は反対したが、押し切った。
結果として任務は成功した。予定通り情報も取れたし、死者も出ていない。多少被弾しかけただけで、大きな問題はなかった――はずだった。
だが帰路についた頃には、視界が妙に重かった。ハンドルを握る指先に力が入らず、赤信号で止まるたびに意識が沈む。
助手席の風見が、何度目か分からない溜息をついた。

「……庁舎へ戻れるんですか」
「報告書を書いたら帰る」
「その顔で?」
「問題ない」

風見はしばらく黙っていたが、やがて諦めたように前を向いた。

帰宅したのは日付が変わる頃だった。
玄関へ入った瞬間、全身の力が抜ける。ネクタイを緩めながら壁へ寄りかかったところで、インターホンが鳴った。
こんな時間に、と眉を寄せながらモニターを見る。そこで降谷は、動きを止めた。
赤井だった。
煙草の匂いまで思い出しそうな顔で、静かにこちらを見ている。
嫌な予感がした。
ドアを開けると、赤井は降谷の顔を見るなり目を細めた。

「ずいぶん遅かったな」

異様に低い声だった。
降谷は反射的に視線を逸らす。ネクタイを外しながら、「風見か……」とだけ返した。
赤井は答えない。その沈黙が答えだった。

降谷は小さく舌打ちし、「大したことじゃない」と言いながら部屋へ背を向ける。だが赤井は玄関へ立ったまま動かない。

「単独で囮役をやったらしいな」

その一言で、空気が変わった。
降谷は数秒黙ったあと、「必要だった」とだけ返す。

「人数を増やすと気づかれる案件だった。結果も出たし、問題ない」

言い切った瞬間、赤井の目が細くなる。

「問題ない?」

声は低いままだった。だが、その温度の下がり方に、降谷はようやく気づく。
――赤井が怒っている。
その事実が、疲労で鈍った神経へゆっくり沈み込んできた。

赤井は玄関から一歩入ったきり、まだ立ったままだった。煙草も取り出さない。ただ、じっとこちらを見ている。

「問題ない。そうか」

短いその一言には、冷たい重みがあった。
赤井はゆっくりと室内へ入り、ドアを閉める。その動作が静かすぎて、かえって緊張を煽る。

「君は最近、ずっと無理をしていたな」

問いではなく、確認だった。
降谷は答えない。代わりにシャツの第一ボタンを開ける。呼吸が少し楽になるが、胸はむしろ重くなる。

「寝ていない。食べていない。その状態で単独潜入だ」

赤井は淡々と事実を並べる。その声には責める響きよりも、押し殺したものが滲んでいる。

「自分の判断力が正常だと、本気で思っていたのか」

そこで初めて、降谷は顔を上げる。

「正常だった。制御もできていた。あなただって……そういうときはあるだろう」

言葉にすると空虚さが混じる。自分でも気づく程度には。
赤井は一歩近づいた。

「買い被るなよ」

低く落ちたその一言が、部屋の空気を一段冷やす。
降谷の喉がひりつく。怒鳴られたわけではない。だが、彼が本気で抑えているときの声だった。

「君は、自分は壊れないと思っている」

赤井の視線は逸れない。

「多少削れても立てる、踏み止まれる、最後は辻褄を合わせられる――そう思っている」

降谷は何も言えない。図星だった。
それでも反論しようと口を開きかけた瞬間、赤井が続ける。

「だが今回、君は限界の線を見誤っていると思う」

確かに、風見に見抜かれ、赤井にまで情報が回っている時点で、完全に制御下だったとは言い難い。それは理解している。だが、認めるのは別の話だった。
赤井はさらに一歩距離を詰める。

「君は、自分がいなくなった後のことを考えていない。俺を置いていく側に自分は回れると思っている」

初めて、赤井の声にかすかな揺れが混じった。
怒りではない、別の感情だった。長い時間を生きてきた男が、何度も残される側に立たされた記憶を、無理やり抑え込んでいるような声。
降谷の呼吸が浅くなる。
自分は任務を遂行しただけだ。最適解を選んだだけだ。そう言い聞かせようとするが、赤井の言葉がそれを許さない。

「自分を差し出せば解決すると考える癖がある。俺はその考え方を許容しない」

時計の秒針が遠くで鳴っている。冷蔵庫のモーター音がやけに大きい。
降谷は立ったまま、指先を握り込む。
責め立ても、感情的な言葉もない。ただ事実と、価値観を突きつけてくる。その方が、ずっと堪える。
降谷はそこでようやく、自分が何を前提に動いていたのかを思い返す。
自分なら大丈夫だと。多少の無理は計算の内だと。
だが、その計算に、赤井は含まれていなかった。

視線を上げると、赤井はまだこちらを見ている。怒りは収まっていないが、その奥に、消しきれない恐怖があるのが分かった。
沈黙が落ちたまま、数秒が過ぎる。
降谷は視線を床へ落としていた。緊張で背中に汗をかき、指先に力が入りすぎているのが分かる。
長い静寂に耐えきれなくなったのは、降谷のほうだった。

「……へまをする気はなかったし」

言い訳に近い言葉だった。だが本心でもある。
赤井はすぐには返さない。小さなため息をついてから、言う。

「君はいつもそう言う。失敗しない。死ぬ気はない。制御している。だが君は、限界の線を自分だけで決めている」

赤井はゆっくり近づく。

「その線が正しいと、なぜ断言できる?」

降谷は顔を上げるが、答えられない。
自分の判断を疑ったことはなかった。無理をしても、最後は戻れると信じていた。これまではそれでやってきたし、今回も同じつもりだった。
だが、風見が赤井に告げ口をした時点で、少なくとも余裕ではなかったのだろう。

「結果は出した」

それでもそう言うと、赤井の目が揺れた。

「結果さえ出せばいいと思っているのか」
「違う」
「俺は」

赤井の声が、少し強くなる。

「俺は、君が壊れる前提の最適解を評価しない」

赤井は怒っている。だがそれ以上に、ひどく怯えているようにも見えた。

「俺の気持ちを置き去りにするな」

はっきりとしたその一言は、怒りではなかった。

再度しばらくの寂が続く。
やがて降谷は、ゆっくりと視線を逸らした。

「……今回は、無理してたと思う」

はっきりとは言わない。だが自分の過信を認めるには、それで十分だった。

「まだいけると思ってたし」

赤井は何も言わない。ただ聞いている。
降谷は続ける。

「でも今日、帰りの車で少し視界が揺れた。あれは正常じゃなかったと思う」

自分の口から出たその言葉に、ようやく現実味が出る。
赤井の肩から、わずかに力が抜けた。

「分かっているならいい」

声の硬さが少し和らぎ、降谷はうっすらと苦笑する。
赤井は近づき、降谷の顔を覗き込んだ。

「君は強いが万能じゃない」
「知ってる」
「知っていると言うわりに行動が伴っていない。風見くんに心配をかけるな」
「……」
「今日はもう何もしなくていい」

降谷は赤井の瞳から再び目を伏せ、口をとがらせる。

「報告書が……」
「明日にしよう」

穏やかに言い切られる。
降谷は抵抗しようとしたが、やがて諦めたようにソファへ腰を下ろす。視界がまだ少し重い。自分が思っていたより疲れていたらしい。
赤井はその前に立った。

「君が無理をすると、俺は怒るよ」

降谷は顔を上げる。

「覚えておけ」

その言葉に、理不尽さはない。ただ降谷を想い、真っ直ぐだった。
降谷は数秒見つめ返し、それから口角を小さく上げた。

「……分かった」

観念したようにそう言うと、赤井はようやく降谷の頭へ手を置いた。長い指が金髪をゆっくり梳く。その手つきは、怒っていた男のものとは思えないほど静かだった。

「今日は休みなさい」
「……隣にいてほしい」

ぼそっと言うと、赤井は呆れたように目を細めた。

「反省の色が薄いな?」

手を伸ばす降谷に、赤井は苦笑しながら「仕方ない」と低く呟いた。
その声音に、さきほどまでの緊張はもうない。

降谷は肩の力を抜き、ソファに座った赤井の体温へ寄りかかる。自分が無敵ではないと認めるのは悔しい。だが、それを許される場所があることに、思っていた以上に安堵している自分がいた。




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