……ああ。
雪が、降っている。
「……ネルさん?」
「ネルさん!」
冷たい。
冷たいものが頬に触れた。
崩れ落ちた身体には相当な熱がたまっていたのだろう、倒れたネルの周りの雪はするすると溶け始めた。肌の上で水になっていく雪はあまりにも冷たかったが、むしろネルにはそれが心地よかった。
雪の上に寝そべるなんて、初めてだ。
曖昧な視界の中、少しだけ笑った。
「おい、こんなところで倒れんなよ!」
「ねえ、ネルさん、ひどい熱だよ!」
「アーリグリフが近いわ。急ぎましょう。クリフ、背負って」
耳元で仲間たちの悲鳴が聞こえる。己の情けなさに涙が出たが、それは溶けた雪と混じり合って、誰にも気付かれなかった。
コンコン、と、宿の部屋に軽い音が響く。
ネルが返事をすると、ポットとカップ、タオルがのったトレイを持ったフェイトが、少し驚いたような顔をしながらドアを開けた。
「起きていたんですか、ネルさん」
「心配かけたね」
かすれた声で言いながら、ネルは苦笑を浮かべた。
フェイトはネルに近づき、サイドボードの上にトレイをのせると、隣のベッドに腰掛けた。ベッドで上半身だけ起こしているネルを見て、小さな息をつく。
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか。普通なら歩けない高熱ですよ。そんな身体で雪の中を歩きなんてしたら、余計にひどくなるに決まってるじゃないですか」
「足手まといになってちゃいけないと思ってさ。平気だろうと思ってたけど、結局このざまだ。みんなに迷惑をかけて、まったく情けないね」
「別に迷惑だなんて思ってません。でも無理はしないでほしいんです」
「みんなに謝らなきゃ」
話を半ば無視してベッドから降りようとするネルを、フェイトは慌てて制止した。
「無理ですってば! まだ熱は下がってないんですよ」
「大丈夫だよ、これくらい。こんなところでへばってる場合じゃないんだ」
「熱を下げることが最優先でしょう? 今はゆっくり寝て身体を休めてください」
「私のせいでみんなが足止めを食らうくらいなら、さっさと出発して」
「ネルさん!」
いいかげんにしてくださいと、フェイトはその場から動き出さないようにネルの肩をぐっと押し下げた。ネルが驚いて見上げると、青年の険しい目がネルに向けられていた。
「あなたは、いつもそうだ。どうして、自分のことをもっと大事にしないんですか」
「別に……私は」
「ネルさんが欠けたら、僕たちもつらい。ネルさんは大事な戦力だし、仲間なんです。ネルさんが苦しい思いをするのも、傷つくのも、僕は嫌なんだ。自分を追いつめてまで一緒にいようとしてほしくない。厳しいことを言うけれど、そんな優しさや思いやりは要りません。お願いだから、無理をしないでください……」
フェイトは青い髪で隠すように顔をそらすと、サイドボードにのせた薬湯の説明を簡単にして部屋を去っていった。
ドアが静かに閉まる様子を見つめながら、ネルは嘆息した。
「……私は、何をやっているんだか」
無様な自分に、泣きたくなった。
雪が罪を解かしてくれるのならば、この身体も同じように水になってしまえばいい。
血で濡らしたこの手に後悔などないけれど、苦渋は絶えず、この心をいつまでも襲い続ける。
あのまま、雪に溶けてしまえたら、楽だったのかもしれない。周りに仲間がいなければ自分は救われず、冷たい雪の上で凍えていたはず。
死んでいたはず。
愛すべき国は、もう戦をやめたのだ。全ては平和になるだろう。そのとき軍人である自分の存在する意味は残っているだろうか。自分は存在していても許される存在だろうか。
果たして。
「クソ女」
唐突に声がした。
肩を震わせ、ネルはとっさに目を開いた。見えたのは、ここ最近やっと見慣れた男の顔だった。血の色をした目がこちらの様子をうかがっている。こんな間近から彼の瞳を目にするのは初めてだ。
男は、床の上でしゃがんでいるようだった。
「どうしてこんなところで寝てんだ」
アルベルは低い声で言いながら立ち上がり、ネルに手をさしのべた。わけも分からずにそれを掴むと、男の力によってぐいと持ち上げられる。そこは部屋の窓際だった。どうやら窓の外を覗いていて、そのまま床に座り込んで眠ってしまったらしい。
「発熱している状態で、窓全開で寝られるなんてな。馬鹿にも程があるぞ、阿呆」
「うるさいね……なんで、あんたがここにいるのさ」
頭痛のする頭を押さえつつ、身体を支えようとするアルベルの手を振り払うが、その反動で視界が揺れ、倒れかける。寸前のところで男の手がネルの背中を支えた。
「吐き気がする」と呻くと彼は嘆息して、ネルの身体をひょいと抱え上げた。義手の腕でよくやってのけるものだ。
「普通、病人ってもんは寝床で寝るんじゃねえのか」
「外を見ていただけさ。雪が珍しくて」
「気温を考えろよ。せっかく暖炉がある部屋なのに台無しだ。火も消えちまったぞ」
「熱が出てる今は気温なんて分からないんだよ」
「屁理屈だな」
「……そうだね」
アルベルはベッドの前に来ると、ゆっくりとネルの身体をその上に横たえた。ネルは居心地悪さを感じつつも礼を言わなければならなかった。
「すまない」
「ババアみてえなこと言うな。あのまま床の上で眠らせておいたら明朝には死んでただろうが。それを救ってやっただけありがたいと思え」
「あんたは口が悪いうえによくまあそんなベラベラと口がまわるね。だから部下から嫌われるんだよ」
「上等だな。余計なクソ虫どもに付きまとわれるよりはマシだ」
「負け惜しみかい」
「……その減らず口に雪でも突っ込んでやろうか」
「減らず口はどっち……ごほっ」
喋っていて喉が乾燥したのだろう、咳き込むと、アルベルはどかりと隣のベッドに腰掛け、サイドボードのポットを片手で持ち上げて軽く揺すった。
「飲んでないのか」
咳き込むネルを睨み、問うてくる。苦しくて涙目になりながら、ネルは小さく頷いた。
「飲むのを忘れただけだ」
「薬に頼るのも嫌なのか」
「違う、気分が悪くて飲めなかっただけだ。こうやって喋れるんだから、もう大丈夫だとは思うけど」
肩をすくめ、上半身を起こしたネルはアルベルの手からポットを取り上げると、トレイの上のカップに注ぎ入れ、そのままぐいと飲み干してみせた。だが、再び咳込んで吐き出しそうになる。するとアルベルはとっさに隣に座って、背中を静かにさすり始めた。
男の行動があまりに意外で、ネルは苦しげな声で皮肉を言った。
「お……どろいたね。あんたが、そんなことをしてくれるなんて」
「少しは黙ったらどうだ」
厳しい口調で、アルベルはそう言い返した。
観念して、ネルは背中を撫でられたまま、それ以上何も言わず、呼吸が落ち着くのを待っていた。
窓の外に見えるのは、しんしんと降り続く雪。
聞こえるのは街の人間の微かな声と、部屋の時計の針が進む音。
時たま、絶えた暖炉の炭がはじける音も聞こえた。
「……あんた、生きてるんだね」
ネルの呟きに、アルベルはしばらくしてから訊き返した。
「なんの話だ」
ネルは、背中に当てられた手を不覚にも心地よく感じながら、憎悪を込めて言った。
「あんたなんか戦争の中で死ねばよかったんだ。そうしたら、あんたと顔を合わせることもなかった。
ねえ、あんたはどうして私たちについて行こうと思ったんだい」
「別に……強くなりたかっただけだ。青髪についていけば、更なる強さを持った敵と遭遇できるかもしれないと思ったからな」
「……」
「敵とか味方とか、お前が考えそうなことは、ぶっちゃけ俺にはどうでもいいことなんだよ」
言葉に、ネルは目を見開いた。瞬間的に怒りを覚え、勢いよく振り返る。
「……なんだって」
「情とか因縁とか引きずってアーリグリフを憎んでいるかもしれねえが、戦争は停まったんだ。任務もない今だからこそ、俺は戦えればそれでいい。俺は、いつだって俺のために戦っている。俺以外の人間の気持ちなんて関係ない」
「あんた……」
「あの青髪たちも、きっとそう思ってるぜ。俺と共に戦うことに抵抗はあるのかもしれねえが、お前のそんなちゃちい悩みなんかあいつらには関係ねえんだ。ばれてんだよ、お前がいつまでもアーリグリフだのシーハーツだの考えてるってことはな」
「自分の国を想って何が悪いんだい!」
咄嗟に叫んでいた。やはりネルは許せなかった。のうのうと生きて、自分と共に戦っている、この男が。
初め、アルベルがついて行くという話が出たときは、なぜかそれほど抵抗はなかった。フェイトたちがよい戦力になると密かに喜んでいるのを聞いて、それも仕方ないだろうと自分を納得させた。予想通り、彼はめきめきと力をつけていったし、もし今、彼がパーティを抜けると言ったら皆から引き止められるだろう。それくらい、アルベル・ノックスはパーティになくてはならない戦力になっていた。
だが、馴染めば馴染むほど、ネルの心には悶々としたものがわき上がった。なぜ、自分はかつて敵同士であった男と共に戦っているのだろう。彼は多くの人間を実際にその手にかけ、シーハーツにこの上ない苦しみを与えた張本人なのだ。タイネーブや、ファリンも、部下だけではない、彼によって自分の国の人々が傷つき、悲しみ……
そう考え出すと、止まらなかった。この男が憎い。この男の国もいまだ憎い。全ては終わったのだと納得しながらも、自己中心的なこの男を見ると無性に腹が立つ。
許せない。
ネルは暗い笑みを浮かべ、アルベルを睨みつけた。
「戦いの中で死ねたら、あんたはさぞ本望だったんだろうね」
瞬時、鋭い刃がネルの首元に当てられた。ネルは呼吸を潜める。そこにあるものは恐怖ではなく、諦めにも似たような感情だった。
アルベルは、冷ややかに言った。
「お前の苦しみなんぞ簡単に終わらせられる。斬るか? 今のお前なら確実に地獄に落ちるだろう」
ネルは目を伏せ、肩の力を抜いた。男がゆっくりと刃を下ろす。もし抵抗したら彼は本当に斬っていたのだろうか、ネルにはよく分からなかった。
「……分かっている。私は、自分が許せないだけだ……」
ネルは、苦々しくアルベルの顔を見つめた。彼も困惑した表情でネルを見つめ返す。男の戸惑っている顔が少し可笑しくて、ネルは小さく口角を上げた。
「きっと、あんたには分からない苦しみさ。自分のために戦っている人間にはね。私は、今、ここであんたを殺すことができるんだ。簡単だよ。でも、殺さない。どうしてだと思う? その必要がないからさ。意味がないんだ。もちろん、国の誰かから命令されたらできるけどね」
「……」
「でも、あんたを殺める資格が私にあるだろうか。私も、あんたと同じことをした人間だ。私も敵国アーリグリフの人間を殺した。殺された人々は、私たちの国の人間と何ら変わらなかっただろう。一国にとって大事な民だったし、彼らも私たちと同じように生きていたかっただろう。私は、敵だからという理由で彼らをこの手で殺めた。その人が殺されて、家族がいて、知り合いがいて、悲しみは止まらない。命が消えれば消えたぶんだけ憎悪は連なる。その悲しみを生み出した自分が、生きて、世界を救おうとしているのが時々許せなくなる。無論、戦争はそういうものだって、分かり切っている。でも……
私も、きっと今はあんたと同じだ。互いに殺し合って、いつの間に戦争は終わって、憎しみは変わらないのに、私は、なぜかあんたを許している。許しているから、殺せない。それはとても自己中心的なことだ。それでも、やはり憎いんだ。私は、あんたを心底憎んでいる」
「……もういい」
「あんたを見ていると、私を重ねてしまうんだ。私も、あんたと同じ。過去の人々の想いを無視して、自分勝手に自分の進むべき道を決めた張本人なんだと」
「もういい」
「この星の人たちは、世界がどうとか宇宙がどうとか、まるで知らないのに、私はひとりで」
「もういい!」
「あんたも私を憎めばいいんだよ! 私と同じぐらいに!!」
思い切り叫ぶと、ネルの青い顔はさらに血の気を失い、青白くなった。
「……あんたも、憎んで、私を殺そうとすれば……」
熱が再び上がってきてしまったのだろうか、視界が揺らぐ。それを追い払うためにぶんぶんと頭を振りながら、後を続けた。
「そうしたら、私も、あんたを憎みきれるのに」
「……俺は」
「あんたが私を殺そうとしていれば、私もあんたを自由に殺せる。でも、フェイトたちがいる。あの子たちは、あんたを必要としてる。だから、殺せない」
「俺は、別に。
お前を憎んじゃいねえよ」
溜息混じりに言い、アルベルはベッドから立ち上がると、抜いていたカタナを鞘にしまいつつ、暖炉の方へ向かった。
「はっきり言って、戦争中も、お前らのことはそんなに気にかけてなかったしな」
暖炉の前にしゃがみ込み、そばに置いてある薪を適当に取り、中に放り入れる。
「言っただろ。俺は、俺のために戦っている。戦争中のことは忘れてんだ」
「私には、それが」
「許せなくても、俺はそうなんだから、仕方ねえだろ」
放り入れる際の微風で舞い上がった灰を鬱陶しそうに手で払いつつ、
「それに俺は自分に利のある戦闘にしか参加しない。戦争中は存分に戦わせてもらったけどな。けど、それはどれも仕事だったんだよ」
薪の一本に火をつけ、それを放り込むと、暖炉の中が橙色に染まった。その様子を確認すると、アルベルは立ち上がり、再びネルの前まで来て、今度は見下ろすような形で続けた。
「俺がお前を殺そうとしねえのは、お前が戦闘の利になってるからだ」
隣のベッドにどかりと腰掛けてくる。
ネルは不思議そうな目でアルベルを見て、同じく不思議そうな声で訊き返した。
「利?」
「青髪たちがお前を必要としているのは、お前の力を認めているからだろう。俺も同じだ。ネル・ゼルファーが共に戦闘に参加していても、別段嫌じゃねえんだよ。嫌じゃねえ奴をどうして殺す必要がある。過去のことを引きずって自分を窮地に追いやるほど、俺は阿呆じゃない。
俺とお前は、同じじゃないだろう。俺には、優しさや悔いはない。そんなもの、あっても無駄だからな。そんな余計な気持ちをまとわりつかせたまま戦闘に参加してみろ、じきに死ぬに決まってる」
「……」
「俺はきっと、お前を仲間として認めてるんだ。あの青髪たちと同じように」
ネルはぽかんとした。この男の口から、仲間などという単語が出てくるとは。
沈黙にアルベルは少し居心地が悪かったのか、言い訳のように続けた。
「わざわざ仲間を殺す必要はないだろう」
「それは……そうだけど」
「だろ」
ネルは閉口した。アルベルもそれ以上、何も言ってこない。
静けさの中で、下の階から、マリアの声が聞こえた。他の仲間の声も聞こえてくる。どうやら、ここにいない人間で集まって団らんでもしているようだ。
「で、でも……ただ単にフェイトたちがいるから、あんたは私と対峙せずにいるだけだろう」
それでもやはり疑心があって言うと、アルベルは苛立ちの混じる溜息をついた。
「なら、ひとつ聞く。お前は、もしいま終戦状態でここに俺たちふたりだけしかいなくて、青髪たちに出会っていなかったら、どうしていた」
「え?」
「青髪たちがいなかったらだ。お前は、俺を殺しにかかったか? 憎いという理由で」
それは簡単な問いだったし、ネルはすぐに答えるつもりだった。殺していた、と。
だが、言う前に自問してみると、なぜだろう、どこか引っかかるところがある。
殺していたはずだ。だって、自分の大切なものを傷つけたこの男が、憎いから。
「あいつらがいなかったら殺さないと、矛盾するぞ。お前は、仕方なく俺を殺さずにいるんだろうが。憎みきれない原因があいつらにあるとしたなら、もしあいつらがいなかったら、お前はどうしていたんだという単純な問いだ」
「……」
「思う存分、俺を殺せるだろう」
「……」
「なぜ、何も言わない。言えばいいだろう、"お前を殺す"と」
男の声がネルに突き刺さる。
殺すと言えばいい。それは確かにその通りで、それ以外の選択肢はネルにないはずだ。でも、なぜだろう。不思議と彼の言葉が悲しく聞こえてしまうのだ。
ネルが即答できないことは予想の範疇だったのだろうか、アルベルは目を伏せて淡々と続けた。
「悩むなよ。別に深く考える必要はない。ただの仮定だ」
「……」
どうして「殺す」とすぐに言うことができないのだろう。焦燥が生まれても、もどかしいほど口から言葉が出てこない。
ネルが混乱しているのを悟ったのか、アルベルはふっと吹き出した。
「気にするなよ。仮の話なんぞ、俺はそもそも嫌いだからな」
「でも、でも……私は、あんたのことを許せないんだ」
「分かっている」
もうこの話はおしまい、と言いたげに、アルベルは立ち上がると腰をひねらせてネルを見た。そこには意地悪にも見える笑みが浮かんでいる。
「お前は影響されやすいな」
「え?」
「敵国の男の言葉を真に受けて、惑っているじゃねえか」
ネルは羞恥と悔しさで頬を染めた。
「うるさい! 別に私はあんたの言葉に惑っているわけじゃない。あんたのことを完全な味方だとも思っていないし、まだ許してもいない」
「許す……ね。それも不透明な言葉だな」
呟きながら嘆息し、じゃあなと言って部屋を出ようとするので、ネルは慌てて呼び止めた。
「待て! 話は、まだ終わっていない」
「風邪を引いているのによくそんな大声が出るな。さっさと寝ろよ阿呆が」
「あ、あんたはどうなの?」
アルベルはドアの前で立ち止まり、一体何の話だというふうに小さく首をかしげた。そこでネルはどうして自分はこの男を引き止めたのだろうとハッとしたのだが、今更引き下がるわけにもいかず、思いついたことを適当に声に出した。
「あ……あんたは、フェイトたちがいなかったら、どうしてた? 少なくとも私は、あんたにとって快くはない存在だろう。歪のアルベルは、そのカタナで私を惨殺していたのかい?」
「あ?」
聞こえないふりをするような声で返してくる。ネルは、よく考えると意味深長に感じられる自身の問いに戸惑って、目線をうろうろさせた。なぜ、先ほどからこれほど冷静さを欠いているのだろうか。威厳も何もあったものではない。
案の定、アルベルはからかうようにくっと笑うと、
「さあ? 自分で考えればいいだろ」
更に上を行く意味深長な返事をして、アルベルはさっと部屋を出ていってしまった。残されたネルは閉まったドアを見つめて、ええ?と裏返った声を出した。
「どういう意味?」
答えなど、分かるはずもなかった。
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