その告白に、わたくしは思わず戦慄しました。決して彼に恋人がいたことに驚いたわけではありません。
 彼らが迎えた、その結末に。
「僕は……ろくに、彼女に、さよならも言えなかっ……」
 彼の言葉は、息が詰まったために、後が続きませんでした。わたくしの身体をぎゅうと抱きしめ――それはかつての愛しい人間の温もりを求めているかのように強く――わたくしの肩に顔を埋めて、あまりに痛々しく、悲しげに、しかし必死に声を抑えようとしているのが分かる様子で、こちらの心が痛くなるほど強く強く泣くのでした。あまりの彼のそのつらい様子に、わたくしの目にも涙が溢れ出ました。この人は、愛しい者を失ってから半年間も、その悲しみを押し殺して生きていたというのです。誰にも告白できず(彼のことですから告白する意味も見出せなかったのでしょう)、嘆きを共有できる者もおらず、ほとんど完璧に等しい空虚の中で、彼はただひたすら独りで静かに悲しんでいたのです。わたくしは、彼が心の中に悲嘆を抱えていることを知っていながら、しかし長い間それを黙認し続けていました。本当は、彼は、この星に流れ着いた時から、このように自分の傷を外に放出したくてたまらなかったでしょうに。
 わたくしは彼の頭に手を回し、髪を撫でながら、なるべく自分の涙がばれないように注意して、彼に謝りました。
「ごめんなさい。あなたは、わたくしに心配かけまいとして、泣くことを我慢していたのね」 彼はゆるく首を振りましたが、いいえ、いいえ、とわたくしは言い、彼のその動作を止めました。「わたくしの前で、嘘をつく必要はありません。どうかわたくしに、その悼みを分けてください。わたくしたちを想い、不安がらせないために、あなたは今まで自身を殺し続けていたのかもしれません。ですが、もうその必要はありません。今度は、わたくしたちがあなたに優しさを与える番です。どうか泣いて、気が済むまで、泣いて」
 それからどのくらい時間が経ったのでしょうか、辺りはすっかり暗くなり、あまりの闇にわたくしが術を唱えて明かりを灯すと、彼は気がついたように身体をわたくしから離し、泣き疲れた表情で、傍にある木を切りっぱなしにしたベンチ(おそらく彼が作ったのでしょう)に、崩れ落ちるように腰掛けました。わたくしは、彼の傍にいていいものかと少し悩みましたが、放っておくわけにもいかないと気を取り直すと、右隣にそっと腰を下ろしました。隣にいる彼の顔を密かに覗き込むと、彼は、心ここにあらずといった表情で、ぼんやりと、どこともない場所を眺めていました。その両目からは、もう涙は流れていませんでした。
 わたくしは、膝に置かれている彼の右手をそっと握り、ノエル、と名前を呼びました。すると、彼はゆるゆると目を上げ、わたくしのことを――まるで子どものように透き通った青い瞳で――じいと見つめたのでした。
「……すみません」 彼は、ひどく小さな声音で、わたくしにそう謝りました。わたくしは首を横に振って、気にすることはないという合図をしました。彼は小さく微笑み、しばらくのあいだ暗い森の一点を見つめていたかと思うと、不意にわたくしに触れられている手を握り返してきました。