「……セリーヌさん」
「なんですの?」
「あの……お願いですから、全裸で部屋を歩き回らないでいただけます?」
「まあ、お風呂を借りてはいけなかったかしら」
「そんなことは言っていないでしょう。でも、真っ裸で部屋をうろうろされるのは」
「髪の毛はよくぬぐって出ましたから雫はそんなに落ちていないと思いますわ」
「そうじゃなくて! 服着てから出てきてくださいってことですよ」
「だって服を居間に置いてきてしまったんですもの。あ、以前来た時に置いていった下着はあります?」
「……。洗濯しておきました。いつもの引き出しに入っています」
「ありがとう。もう、わたくしってば、すっかり居候のようですわね」
「着替えを置いていくのはかまいません。ですが、全裸で僕の周りをうろうろしないでいただきたい!」
「あら、わたくしの裸なんて見慣れたものでしょう」
「見慣れたものであっても、朝は明るいから目のやり場に困るんです」
「あなた動物学者のくせにそんなことおっしゃるんですのね。人間だけですのよ、服なんか着て闊歩しているのは。あなたにとって、服着て歩く動物なんて滑稽ではございませんこと?」
「あのねえ。僕は学者ですけど、人間の尊厳を捨てたり蔑んだりしているわけではないんですよ」
「あらやだ、こんな下着をあなたのところに残してましたのね。地味だわ。もっと過激なものを用意しなくちゃ」
「……」
「ま、一人の女性としてあなたに見ていただいているということは、わたくし自身もよく分かっていますわ。けっこう驚きましたの、学者だからかしら、女性の扱い方があなたは上手いんですのよ。奥手の皮を被った策略家ですわ。わたくし、意外にどっぷりあなたのテクニックにはまっているみたい」
「そうですか。ありがとうございます。あの、下着姿でも動き回らないで!」
「ああんもう! うるさいですわね。少しぐらい我慢なさい。ここは森小屋だから人の目が気にならないの。こうやって無防備な姿でいるのが新鮮で楽しいんですのよ。あなたもそういう感じで暮らしているのかと思っていたんですけれど」
「偏見です。僕が森で暮らしているのは自然を観察するためです」
「でも、俗世を離れたいという気持ちは分からなくはないわ。わたくしも単独行動派ですから、静かな場所で過ごしたいという望みには共感できますの」
「人の話を聞かない人ですね……ほら、服! 投げますよ」
「きゃっ。もう! 乱暴ね。わたくしの裸を見るのがそんなに嫌ですの?」
「目のやり場に困るんです。さっきも言ったでしょう」
「うふふ。わたくし、ノエルがちゃんと男の人をしていて安心しましたわ。ま、散々思い知らされているし、今更ですけど」
「僕をなんだと思っていたんですか……」