「ねえチサト。
 その服、ちょっときわどいのではありませんこと?」
「…………心の底からあなたに言われたくないわ」
「あら、わたくしは紋章術師ですもの。それらしい格好をしなくては、ということでこういった服を身につけているんですわ。
 でもあなたは体術使いでしょう? そんな短いスカートを履いていたら見えてしまいますわよ」
「下に短いスパッツ履いてるから大丈夫よ」
「それでも目のやり場に困る男性はいるのではありません? 胸元にも谷間が見えておりますし……ノエルが可哀想ですわよ」
「な……な、なんでそこでノエルが出てくるの? 関係ないじゃない」
「あら、あなたたちがいい感じだということをわたくしの前で否定する意味がありまして?」
「……」
「ま、それはさておき、もしわたくしが男性でしたら、もう少しで見えてしまいそうなそんなきわどい格好は許せません。もっとまともな服を着ろ、と言いたくなりますわ」
「あなたの言葉をそのままそっくりディアスに伝えたいわね」
「ノエルは男性の中では紳士な方ですし、きっとハラハラしているんじゃありませんこと? 何か言われたことはございまして?」
「え? 別に。特に無いんだけど」
「あら」
「エクスペルでの宇宙船での待ち合わせの時も、彼は、ああ新しいスーツなんですね、程度のことしか言わなくて」
「……」
「…………ちょっと残念だな、とは、思ったけど」
「んもう! 本当はわざとやってるんじゃないの、チサトってば」
「ち、違う、そういうわけじゃないわよ。でも、ただ……も、もうちょっと、褒めてくれても」
「ああん! もう、あなたって人は! ノエルだけを狙ってそうおっしゃってるのかもしれませんけど、男性はノエルだけではございませんし、この星にも多くの男性がおりますわ。あなたのそのきわどい格好に興味を示した多くの男を警戒しなければならないのは、可哀想に、ノエルですのよ!」
「ノ、ノエルは……そこまで私に興味なんて持ってないわよ」
「嘘おっしゃい。わたくし、本人に訊いてきてあげますわ」
「え? ノ、ノエルに?」
「ここでお待ちなさい!」
「え、ちょ、ちょっと!
 セリーヌ!!」





「自室で本を読んでいたノエルに、訊いてきてあげましたわ、ええ」
「……別にいいのに」
「でも、チサトは気になるでしょう」
「……」
「気・に・な・る・でしょう?」
「………………まあ」
「とりあえず、コーヒーをわたくしにも淹れて下さる? ノエルってばなかなか本心を話さないものですから、問答が大変でしたのよ」
「そう……なんとなく想像つくわねえ」
「あ、わたくしはブラックでかまいませんわ」





「……それで、なんて言ってたのよ、ノエルは」
「そう、わたくし、まず初めに“チサトの今の格好についてどう思いまして?”と真剣に訊きましたわ」
「へえ」
「わたくしのいつにない真剣っぷりに、ノエルもいささか驚いてしばらく黙っていらしたけど、しばらくして、“可愛いですね”ですって」
「……」
「あらっ、そこ赤くなるところですの?」
「う、うるさいわね、赤面症なんだから仕方ないでしょっ」
「ふふっ、可愛いですわね。それで、彼があまりにもひょうひょうと答えるものですから、“あらあなた、それだけじゃないでしょう”と問いつめましたわ」
「ふうん」
「でも、“それ以外に何も……”の一点張り。でもねえ、ノエルだって男性ですわ、やはりチサトのそのギリギリな格好にはハラハラするかドキドキするかムラムラするか、なにかしらあるはずですのよ」
「えぇ……」
「で、ひたすら粘りましたの。それだけではないはずですわ、って」
「でも、そんなにしつこくして彼、機嫌が悪くならなかった?」
「あら、そんなことを気にしていたら聞けるものも聞けませんもの」
「強いわね、セリーヌ……」
「で、粘りに粘ったら、聞けましたわよ〜、本音。気になるでしょう? 彼の本音ですのよ、あなたにも言えないような」
「……」
「でもま、彼らしいと言ったら彼らしいけれど」
「……何なの?」
「彼曰く、“もし、あの格好に、誰かのためという意図が含まれているのだとしたら、その相手が誰なのか、とても気になりますね”」
「………………」
「ごくごくにこやかに、ごくごく平然としておっしゃっていましたわ。ま、ノエルにしては頑張った、というところではないかしら?
 ……あら、チサト、大丈夫?」
「……ううう……」
「あらやだっ!? どうしてお泣きになるの!?」
「うわあん……」
「もー、どうしたの、チサト! 大丈夫? ほら、わたくしの胸でお泣きなさい」
「ふええええ」
「何がございました? わたくしが深入りしすぎましたの? ごめんなさいね、やりすぎたかしら」
「……うえええん……そうじゃ、ないの……」
「あら、なら、一体どうしましたの?」
「悔しくてぇ……」
「えぇ?」
「もう、嫌だわ……いっつも私、負けてばっかり」
「え……勝ち負けですの? これって」
「その一言でさえ、私、嬉しいって思っちゃうのよ!」
「……………………。
 可愛いですわね、チサト……」





チサトの泣き声を聞きつけて慌てて行ってみたら
セリーヌとチサトが抱き合っていてビビったノエル