「ディアス、ディアスー!」
「聞こえている。大きな声で騒ぐな」
「石鹸を取ってくださるー?」
「石鹸? ……ああ、さっき買いに行っていたものか。どこにある」
「わたくしの化粧台の上!」
「声が大きい。シャワーを止めてから話せ」
「え、なんですのー?」
「……」





「ここに置いておく」
「ありがとうございます。もう、ディアスも一緒に入ったらよろしいのに」
「なぜ二回も入らなければいけないんだ」
「わたくしが帰ってくるのを待っていてほしいという話ですわ」
「石鹸を買いに走ったお前を? その間に俺が風呂を済ませる方が効率的だろう」
「わたくしと一緒に入りたいという気持ちはございませんの?」
「……別に」
「いま一瞬考えましたわね?」
「別に。そもそもどうして誰かと風呂を共にしなければならないんだ。狭いだろう」
「その狭さを楽しむものなんですのよ」
「……お前は誰かと共に風呂に入ったことがあるのか?」
「はい? なんですの? シャワーの音でよく聞こえませんわ」
「……もういい」





「しかし、いつまでこのコテージを借りているつもりなんだ? もう二週間過ぎているし。宿泊費がだいぶかさんでいる気がするが」
「だってまだ受けた依頼が終わっていないでしょう」
「この一軒家を借りる必要があるのかということだ。どうせ昼間は外に出るんだし、金銭にうるさいお前のことだ、普段通り安宿でもよかったはずだが」
「夫婦生活を体験してみたくて」
「……
 は?」
「夫婦生活、ですわ」
「……どういう意味だ」
「言葉通りの意味ですけれど」
「夫婦の夫の部分は、俺のことか?」
「他に誰がいますの?」
「いつから俺たちが夫婦になった」
「夫婦ごっこ、ですわ。ごっこ。ディアスと夫婦の間柄になったら、どんな感じかしらと思って」
「どうしてそんなことを検証する必要がある?」
「…………」
「……ん?」
「今のは、けっこうショックでしたわ」
「え? ……はっ」
「仲睦まじく一緒に旅をしていたとしても、あなたにとって、わたくしなんて所詮その程度ですのね……」
「いや、その」
「いいですわ、いいですわ、あなたがそう出るのなら、わたくしも相応の態度でいるよう努めるようにいたします」
「あのな」
「一緒に入浴するだなんて、そもそも論外なことでしたのね」
「違う!」
「きゃっ! もう、いきなりドアを開けないでいただけます?」
「……」
「やだ、こわい顔」
「入ればいいのか?」
「え?」
「一緒に風呂に入ればいいのか?」
「あら、別にそういうつもりじゃ。こういうのはきちんと気持ちが伴っていないといけませんし」
「ならば証明してみせる」
「はい?」





「キャーーーーっ、キャーーーーーーー!!」
「ちょっ、あ、暴れるな!」
「いやーくすぐったいきゃはははははははははははは」
「おいこらっ、石鹸が排水溝に……がっ」
「あっやだ肘が! ごめんなさい! ……ひっ、ひぃぃー!! いやあん、触らないでっ」
「やれやれ。だから言っただろう、二人では風呂は狭いと……」