「もうディアスってば今月に入って三回目ですのよ三回目! いい加減にして下さる!?」
「す……すまない……」
「一ヶ月に三回も風邪引く人なんて初めて見ましたわっ。あなた、身体の抗体は一体どうなっておりますの!? 見せてごらんなさい!!」
「む、無理を言うな……それに、ちょっと、お前、声」
「三度目ですのよ三度目っ! ギルドの仕事が受けられなくなったのが今月入ってこれで三度目! もう、本当に信じられませんわっ、いいお仕事ばっかりリストに入っていたのに、もおおお!」
「なあ、いいか、お前、声が大」
「宿代だって馬鹿になりませんのよ!? ここはクロスの宿屋だからいいものの、ラクールの宿屋でぶっ倒れた時は三日間も余分に払いましたのよ、三日間! あの馬鹿高い宿屋で三日間!!」
「いいか、声が、大きい、黙れ」
「うぐっ……むうう!?」
「頭が痛いんだ、頭痛がするんだ、いいか、お前の声が頭に響くんだ」
「むがあああ!!」
「黙らんと、お前とはもう二度と旅をしない」
「む…………」
「……」
「……」
「……
 それでいい……」
「……ぷはっ。
 もう! いきなり口を塞がないで下さいまし! あなた力がお強いんですから、窒息してしまいますわ」
「お前はな、甲高い声を出すと、耳にキンキンうるさいんだ」
「悪かったですわね。でも、元凶は風邪を引くあなたですのよ?」
「……それはすまないと思っている。ただ、今、かなり苦しい……」
「あらっ、大丈夫ですの? せっかくお雑炊を作って参りましたのに」
「……え? お前が?」
「そうですわ。……なんですの、その意外そうな顔」
「いや……」
「失礼ですわね。意識が朦朧としているのなら、きちんとそういう顔をしていて下さる?」
「訳が分からん」
「わたくし、こう見えても病人食を作るのが得意ですのよ。わたくしの父と母、なぜか知らないけれど、いつも同時に風邪を引きますの。だから、よくわたくしが看病していたんですのよ」
「……へえ」
「とにかく、文句を言っていても仕方がないですわね。あなたに早く元気になってもらわないと、ギルドの仕事を先越されてしまいますもの」
「……お前は本当に仕事一筋だな」
「あら、ディアスがそんなことをおっしゃるなんて、意外ですわ。あなただってギルド仕事で生活なさっているくせに」
「大方お前に巻き込まれているんだが」
「でもまあ、あなたのことですから、どんな仕事もサクサクこなしてしまいそうですわね。とりあえず、わたくしはあなたと旅をすると効率よく仕事を片づけられるから嬉しいんですの。早く風邪を治してくださましね」
「……」
「……なんですの、その不満げな顔は」
「別に」
「もしかして、ディアスってば、仕事に妬いておりますの?」
「馬鹿を言うな」
「あら、もしそうならわたくし、とても嬉しいのですけど。ディアスがわたくしを好きで仕事仲間として選んで下さっているのなら、わたくしも仕事のやりがいがあるってものですわ」
「……」
「なんだかんだ言いつつ、あなたと一緒にいると、勇気がわいて、安心いたしますわ。
 ディアスは、どう思っていらして?」
「……」
「……んもう、こういう時はすぐに口を噤むんだから。あなたらしくて良いですけどね。
 あ、お雑炊が冷めてしまいますわね。お食べになって、またゆっくりと身体を休ませて下さいな」
「……すまないな」
「いいえ」
「ところで、それは何の雑炊なんだ?」
「キムチ雑炊ですわ」
「……キ……」
「効きますわよ」
「……」