「あんたほどほどになまいきね」
「……なんですか、いきなり」
「年下のくせに、なまいきだって言ってんのよ、このなまいき坊主!」
「はあ。飲み過ぎですよオペラさん」
「ああん、私はねえ、本来なら、本来ならね、高貴な方に援助を受けてたっていいんだわ……ほら……あの、あれよ、あのう……」
「クロス王室?」
「そう! そうよ、だいぶいいわ、王家ね、うん、私と釣り合うわあ。言っておくけど、私、貴族なのよ、令嬢なのよ、権力的には、もしかしたらクロス王家よりずっと優位かもしれないわ」
「へえ」
「だからね、だから、私、思うの、王家が国民にエルの捜索願を出して、国民総出で探させたっていいと思うの。そのくらいの価値が私とエルにはあると思うの、分かる?」
「強気ですね」
「強気? ばか、とんでもないわ、だって、私、どれだけエルのことを探してると思ってるの? テトラジェネシスから出て、いくつの銀河を乗り越えたと思ってんの? 数え切れないわ、挙げ句の果てにここに不時着しちゃうし、しかもエルがいるっていうし、ああ……なんていうことなの、ちょっと、ねえ、アシュ! あんた、エルは一体どこにいるのよ?」
「知りませんよ、だから僕が一緒に探してるんでしょ」
「いつになったら見つかるの、エル、エル……
 うう……ねえ、グラス、もう一杯」
「えっ、まだ飲むんですか。もう五杯目ですよ」
「はあ? ばかね、あんた、五杯なんて序の口、瓶の三、四本は余裕で空けられるわよ、私、強いのよ、お酒」
「そうは見えませんが」
「そこの、お嬢ちゃん、ねえ、赤……そう、赤ね、もう一杯お願い」
「明日も探しに行くんですよ、そんなに飲んで、二日酔い大丈夫ですか?」
「平気よ! いきられてみれる……生きて、みれる? 生きてみせる、わ」
「意味分かりませんよ、ろれつ回ってないし」
「嘘おっしゃい! とりかく、わたし、エルが見つかるまでは、ぜったいにあきらめれるれ……」
「はいはい、そうですね、恋人が見つかるまでは、諦めませんね」
「うう……ぐるぐるするわ。
 ああ、エル、エル……愛してるわ、助けて、エル……私、とても寂しいのよ……」
「……」
「エル、私のこと、嫌いになったのかしら。だから、黙って行ってしまうのかしら。
 いつもそうなのよ、アシュ、聞いて、エルは、私に黙っていつもいつも……消えてしまうの。まるで風のようよ、私が令嬢だから、大事なとこのお嬢さんだから? 違うわ、私は、そんな理由は望んでいない、あの人も……
 私、死ぬほどあの人のこと愛してるの、私、あの人の側にいられれば、それでいいの。だいすきなの、恋いこがれてるの。私は愛したいのよ、でも、彼自体が私の側にいてくれないの、そしたら、ねえ、私、一体どうやってエルのことを愛せばいいの? 疲れ果てて寝て、夢の中でエルにやっと会えて、抱きしめて、ふと夢から覚めたときの気持ち、あなたに分かるかしら? 孤独でたまらないわ、泣いてしまうわ、寂しくて寂しくて……私は夢のエルなんかに会いたくないのよ、本物に会って、抱きしめて欲しいの……ああ、エル、エル、どこにいるの……」
「……オペラさん、なんか、すごく可愛らしい人なんですね、べろべろになってるけど」
「あら、今頃気付いたの? 私、とっても一途なのよ、じゃなかったらこんな辺鄙な星に来るわけないでしょう」
「辺鄙……」
「でも、エルがいるならどこへだって行くわ、私、エルと一緒に生きていたいの。エルを愛して、愛されたいわ。私の人生なんて、それでいいのよ。大好きな人と一緒にいられれば、それでいいの、それだけで私は生きていられるの……あ、ワイン来た」
「まあ、なんていうか、エルさんが羨ましいですよ。それだけ想われてるなんて」
「あんま冷えてないわね……え? それだけ想われてるのにあの人は勝手に独りでどっか行くのよ」
「そうかもしれないけれど、男としては名誉なことです。エルさんはきっと、あなたに迷惑かけたくなかったんですよ。
 僕が思うに、エルさんはあなたのことを大事に想ってるけど、考古学者でしたっけ? その旅の間は、あなたのこと、あんまり思い出してないんじゃないかなあ」
「なんですって?」
「睨まないでくださいよ。その方も、あなたのことを心底愛していると思うんです。でもね、あなたのことをしょっちゅう旅の合間に思い出してたら、旅どころじゃなくなっちゃうじゃないですか。エルさんも、逆に、あなたのことを心配したくなくて、一緒にいられると集中できないって思ったんじゃないかな」
「それって私が邪魔だってこと?」
「いや、そこまでは言いませんけど。けれど、男ってそういうもんですよ、同時に二つのことができないんです。……あの、だから、睨まないでください、三つ目だから余計に恐い」
「うぅん……同時に、二つのことができない、か……そういえば、男ってそうかもしれないわね」
「今回は、旅に集中したかったんじゃないですか、きっと。あなたの、てとらじぇねしす?に戻ったら、あなたのこと、離れていた時間分、愛してあげようって魂胆だと思います」
「そうかしら。でも、アシュ、あなたはどうなの?」
「僕?」
「あなた、愛する人とはずうっと一緒にいたい、片時も離れず側にいたいって思わない?」
「僕、かあ、うん……どうでしょう、場合によると思いますけど、基本的に側にいたいタイプかな」
「そうでしょ? 側にいたいわよね、恋人同士なら? ああ、私、あんまり愛されてないのかな……」
「僕はエルさんのこと直接知っているわけじゃないから、断言はできませんけど。でも、オペラさん可愛いから、エルさん、あなたのことを心の底から愛していると思いますよ。僕だったら心打たれてしまいますもん」
「そう? うふふ……そうかしら、そう言ってもらえると、なんだか照れくさいわね……あ、ワイン終わっちゃった」
「はい、もう終わりにしましょう。夜も更けましたし、出ますよ」
「ええっ」
「ええっ、じゃない。飲み過ぎだし、明日起きてくれなかったら僕どうすればいいんですか。はい立って」
「もっと飲みたいわあ。足りないわよ、まだいける……」
「立って……ほらやっぱり、千鳥足じゃないですか」
「ううう、エル、エル……」
「お勘定は僕が」
「えっ、いいわよ、私が払うわ。だってあなた全然飲んでないじゃない」
「あなたに付き合ってグラス二杯飲みましたよ。いいですよ、僕が払うから」
「いいわよ、いいわ、だって、私、あなたよりずっとお金持ちなのよ?」
「いちいち言うことが癪に障るけど、いいです、かまいません。僕が払います。オペラさんは黙っててください」
「……やっぱなまいき坊主ね、あんた」





「ねえアシュ」
「はい?」
「ごめんなさいね」
「何がですか」
「私の恋人探しに付き合わせちゃって」
「ああ……いいですよ。僕、こうやって生計立ててるんで」
「あら、あれっぽっちしかあげてないのに? エルが見つかったら、ちゃんと倍払うわよ」
「ありがたいですけど、あれっぽっちでも生きていけるんです、僕」
「ふうん……ねえ、あなたは旅人なの?」
「そうですね、一応」
「実家はどちら?」
「実家は、無いんです」
「無いの? もしかしてあなた孤児なの?」
「いいえ。けれど、実家はありません。帰る場所が無いから、自由ですよ」
「そうなの……事情がありそうね」
「そうですね」
「でも、そうね、帰る場所があるって、幸せなことね……私、甘ちゃんだわ。一体どれだけの人に心配かけてるのかしら……」
「確かに、それは反省した方がいいかも」
「そうよね、そう……」
「けれど、そのことよりも、あなたはエルさんのことが大事なんでしょう?」
「ええそうよ、大事よ。大事すぎて、こんな遠いところまで来たのよ。エルに逢いたいの、逢って……決して怒ったりしないわ……ただ、抱きしめるの」
「うん、それでいいと思います。僕も、エルさんが見つかるまで付き合いますから」
「……優しいのね、アシュ」
「そうですか? 半ば仕事ですからね」
「あら、憎いわ。本当に、なまいき坊主ね」
「ふふ、なんとでも」