闇を司る男が好んでいた日付の変わる時刻。 窓から降る薄ぼんやりとした月明かりを見つめ、青年はベッドに横たわっていた。 片腕を額にかざし、長いあいだ沈黙したあと、溜息のような声で小さく独り言を呟いた。 「君に、そんなこと言われる筋合いは無いんだよ」 言葉を紡ぐ唇は、小刻みに震えている。 「君には、今の僕の気持ちが分かるでしょう。だって、そういうふうにするつもりで、君は僕を置いていったんだから。苦しめてるんだから」 目からじわりと涙が溢れ、筋になって、こめかみを静かに滑っていった。 彼が復讐の対象として選んだのは、緑の守護聖だった。 彼は、神を憎んでいた。愛するものを奪った存在として、深く憎悪していた。 “神が本当にいると知ったときの、私の心境が分かるかい?” 彼の復讐の仕方は、実に彼らしいものだった。理性的な仮面の下に残酷な本能を覗かせるように、彼は青年に優しさを与えることで、その後の傷をひどく大きなものにしようと図ったのだから。愛するものを失うという、彼がその人生を狂わせた同じ悲しみを味わわせるために。 愛するものに憎まれ、ひどく心が傷ついた青年は、彼が愛した月の光の下でベッドに伏せてしくしくと泣いている。 彼の望んでいたままに。 「でも、たとえ僕が君の復讐の対象になっていても、僕は君のことを憎んでないよ」 涙は止めどなく溢れ、シーツに染み込んでいく。 「憎んだことなんてないんだよ」 こんな掠れた声では、きっと彼には届かないだろう。 |