セイランは、救いたいと思っていた。決して救うことは出来ないだろうが、それでも救いたいと思っていた。
 だが、その“救いたい”という衝動は、結局は自分のためなのではないかとも感じていた。聖獣の闇の守護聖は、心に深く癒えることのない傷を負っていて、その傷は膿んだまま彼のすべてを冒している。もしその傷口を自分が癒してやることが出来れば、彼が本当の笑顔を取り戻してくれるのではないか、より人間として豊かな彼自身を見ることが出来るのではないかと思っていた。
 しかし、そのように治癒された闇の男を見たいと感じることは、自分が安堵をしたいだけのエゴから生まれるものなのではないのだろうか。昔の彼が、何かが起こる前の彼が本来の姿であるならば、その彼を見たい――そして自分に笑いかけて欲しい、君を置いてどこへも行かないのだと言って欲しい、自ら死など選ばないと宣言して欲しい、そう信じたいだけのエゴなのではないのかと。
 闇が、ベッドの上に沈むセイランを浸食していく。身体が重たく、力が入らない。終わりのない絶望に身を浸している。希望の光は消え去ってしまった。
 乾いた涙が出る。時おり部屋のドアを叩く音が聞こえるが、返事はしなかった。声すら出る気がしなかった。先ほどから眠ったり起きたりしていて、目が覚めるたびに現実の棘がセイランを無数に貫いていく。まだ現実を信じたくないのだと、心が逃亡しようと騒ぎ立てる。その苦しみで胸が詰まる。呼吸が荒くなり、まぶたを閉じて衝動に耐える。そして眠る。その繰り返し。
 神さま、と叫ぶ。自分がまさしくその存在であることを忘れて。
 セイランは心の中で叫ぶ。





 君は決定されてしまった。
 自分より先に死にゆくことを。