izkk X限定テキスト そのひと声のこと 2025.9.20
自分の二次創作中の和菊について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています
秋斗に誘われ、休日の渋谷に足を運んだ。
人混みと雑踏はあまり好きではない。だが秋斗は軽快に歩き、次々と店を覗いては品定めをしている。彼の背中を見失わないようについていくだけで、菊之助にとってはかなり疲れる時間だった。
路面のセレクトショップに入ると、秋斗はすぐに黒系のジャケットを手に取り、鏡に合わせては楽しげに笑っている。菊之助は少し離れた場所で目を泳がせ、ふとラックにかかっていた淡いグレーのパーカーに視線を留めた。大きめの柔らかそうな生地で、胸元に小さなロゴがあるだけの、極めてシンプルな一着。
「それ、菊が着たら似合うと思うけど」
試着室から戻った秋斗が、気づいたように声をかけてきた。
普段、シンプルなシャツとスラックスのような服装ばかりの菊之助は一瞬ためらったが、差し出されたそれを袖に通す。慣れない服に戸惑いながらも、鏡に映る自分を見てみれば、思った以上に違和感がなかった。むしろ、肩の力が抜けたように見える。
「似合うじゃん、やっぱ」
秋斗がにやりと笑い、パーカーの裾を軽く引っ張った。
「いつも真面目すぎる格好してんだから、たまにはそういうのでいいんだよ」
「そうかな……」
言葉に困り、菊之助が視線を落としたそのときだった。
「似合うな」
低く落ち着いた声が、背後からふいに響いた。
ふたりが同時に振り返ると、そこには薄手の白いセーターにデニムという私服姿の和泉が立っていた。商品棚の端に片手をかけ、何気ない顔をしている。
「和泉さん……」
まさかの偶然に、秋斗がわずかに声を裏返す。菊之助もまた、息を呑んだ。
和泉は二人の前を素通りしながら、さりげなく商品を一枚取っては棚に戻す。
「真崎と来てたのか」
視線を合わせぬまま、淡々とした口調で言う。
「え、あ、はい。たまたま休みで……」
「そうです。菊が服選ばねえから、俺が見繕ってやろうと思って」
秋斗がさりげなく付け加えた。そんな話だったか?と菊之助は怪訝に思うが、口には出さない。
「へえ」
和泉は頷き、ラックを離れて別の棚へ歩いていく。その背中が視界から消えるまで、菊之助は目を離せなかった。
耳に残った和泉のひと声は、ただの通りすがりの感想だったのかもしれない。だが、秋斗の「似合うじゃん」とは異なる響きで胸に刻まれ、菊之助の心を不思議にざわつかせていた。