izkk X限定テキスト Half of the Warmth 2025.6.22
自分の二次創作中の和菊について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています
就寝前、和泉はいつも通りベッドの上に座り、スマートフォンを見ていた。ニュースアプリを開いて、流れてくる社会面の見出しをざっと流し読みする。和泉の動作を隣で眺めていた菊之助が、横になったまま、ややゆっくりとした声で口を開いた。
「明日、家を空けます」
スマートフォンから目を離し、和泉は菊之助を見下ろす。
「ん?」
「叔父の例の法事です」
「ああ。明日か」
「やっぱり移動を考えて一泊します。明後日は休みですし、向こうも泊まる場所を用意してくれるということなんで。明日の朝に出て、明後日の昼には戻りますね」
「そうか。気をつけて」
短く答えると、菊之助は少し笑って、視線を落とした。
「ありがとうございます」
ふたりの間にまた静けさが戻り、ランプの灯りが天井に淡く影を落とす。
和泉はスマートフォンを持ちながら横になった。
しばらく経って、菊之助がふと身を起こして、和泉の方へ体を傾けた。
不意に唇が重なる。ひとつ、ふたつ、重ねるうちに、和泉の手からスマートフォンがするりとシーツの上に落ちた。
朝食はパンとスクランブルエッグ、ベーコン。
菊之助がキッチンで準備をして、和泉がそれをテーブルに並べる。ふだんと変わらない手順だったが、今朝は妙に静かだった。
「スマホとか充電器とか、ちゃんと持ってるか」
「はい、大丈夫です。財布と着替えと。昨日全部用意しました」
会話も短く、必要最低限だ。時間が来て、スーツ姿の和泉が玄関で靴を履くと、後ろから菊之助が近づいた。
「行ってらっしゃい」
「いってきます」
一度、扉の取っ手に手をかけて、ふと振り返りそうになるが、思いとどまってそのまま出ていった。
菊之助は、閉まったドアの前にしばらく立ち尽くしていた。
庁舎の中は変わらず喧騒に満ちていた。
和泉は自席にいて、資料をめくりながら報告書を眺めていた。
「昼、何にする。六道いないだろ」
ふと同僚にそう訊かれて、和泉は答えかけて口をつぐんだ。
いつもは菊之助が適当な弁当を買ってきてくれるが、今日は不在だ。同僚は気を遣って話しかけてくれたのだろう。いつも菊之助に任せっきりなので(菊之助が食べたいものに合わせているので)、いざ問われると何も思い浮かばない。
沈黙に対して不思議そうな顔をされたころ、和泉は少し焦りながら答えた。
「あー。コンビニとかで何か買うから、いいよ」
終電に近い時間、玄関を開けると家の中は真っ暗だった。当たり前だ。誰もいないのだから。
鞄をソファに投げて、上着を脱ぎ、シャツのボタンを外す。冷蔵庫を開けるが、普段、管理しているのが菊之助なので、何が入っているのはすぐには分からない。そもそも自炊はあまり得意ではないので、やる気がない。
結局、近くのコンビニまで行って買ってきた弁当を温めて、無言のまま椅子に腰を下ろす。弁当から箸で取り上げたおかずの咀嚼音だけが部屋に響く。テレビをつける気にもならず、スマートフォンでニュースでも見ながら、と思ったが、ながら食いを自宅でするのはやめてくれと菊之助が注意してくるのを思い出して、結局、ぼんやりとした目つきでひたすら食べているだけだった。
シャワーを浴びて、髪を乾かして、いつものようにベッドに向かう。
キングサイズの広々としたベッド。
今日は隣の体温がない。ベッドの真ん中が空いていて、そこが妙に冷たく、寂しく感じられる。
枕を菊之助のものと交換する。ほのかに彼のシャンプーの匂いがした。こんな行為ばれたくないなと思いながら、目を閉じて、ふうっと息をついた。
なかなか寝付けず、布団の中でスマホを手に取る。ふだんならすぐに眠れるのに、今日はそうはいかない。
「着いたか。ゆっくりしてこいよ」
短く、メッセージを送る。
数分後、通知音が鳴る。
「はい。和泉さんがいなくて少しさみしいです」
読み終えてから、スマホを胸に置いたまま、和泉は小さく笑った。
午前二時。寝返りを打っても眠れない。
天井を見上げていると、過去の何気ない風景が次々に浮かんでくる。ふたりで買い物に行った帰り道、車の中で交わした小さな会話。
「……うるさいな。いないくせに」
ぽつりとつぶやいて、シーツに手を滑らせる。そこに菊之助がいないという事実が、やけに現実的だった。
休みの日の朝は、目覚ましがなくても自然に目が覚める。
リビングに行き、キッチンに立つ。残っていたパンを焼くが、うっかり焦がしそうになる。菊之助がいれば、こういうとき必ず止めてくれたのにと思う。
バターやジャムも塗らずにそのままかじって、自分で淹れたコーヒーを飲む。音のない部屋に、また自分の咀嚼音だけが響く。
午後三時頃、玄関がカチャリと開く音。
「ただいま戻りました」
和泉はソファに座っていたが、その声に体が跳ねるように反応した。立ち上がり、玄関へ向かう。
「おかえり」
菊之助は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んで近づいてくる。そして、和泉の頬にそっと手を添えた。
「やっぱり、いないとだめだったのかな」
その声は、からかうようでいながら、とても本気だった。
和泉は、ただ無言で菊之助を見つめ返した。
夜、ふたりは一緒に風呂に入り、肩を並べて湯船に浸かった。
夕食は親子丼。菊之助の作るダシの味だった。
やっぱり菊のごはんが食べたい。そう言うと、菊之助は少し驚いた後、いきなりなんですか、とはにかんだ。
湯上がり、ベッドに並んで横になる。菊之助がいつも通り、そっと手を重ねてきた。和泉は、その指を握り返しながら、ぼそりとつぶやいた。
「……ひとりの夜は、なんか嫌だった」
それに対して、菊之助は何も言わず、少し強く手を握って応えた。
部屋は再び静寂に包まれたが、今夜はその静けさがやけに心地よかった。彼の小さな呼吸がそっと混ざり込んでいるから。