izkk X限定テキスト 星空を歩く 2025.1.15

自分の二次創作中の和菊について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています






 冬、時計の針が二十二時を回った頃には、家の中は夜の静寂に包まれていた。
 リビングでは和泉がソファに座って本のページに目を落とし、その向こうでは、菊之助が窓際に立って外の景色に目をやっている。

 ふと、和泉が顔を上げて、菊之助に声をかけた。
「何か見えるのか?」
 菊之助はゆっくりと振り返り、曖昧に笑って「いや、星が綺麗で」と答えた。

 しばらく外を眺めていた菊之助が、そのうちぽつりと呟いた。
「少し、外に出たいな」
 和泉はページから目を離し、菊之助をちらっと見て、本をそっと閉じた。
「俺も行くよ」

 夜は一段と冷えると朝の天気予報が言っていた。
 玄関で分厚い冬用のコートを羽織る。菊之助が和泉の首元を見て、「マフラーは使わないんですか?」と聞いた。
 和泉は短く首を横に振り、「面倒だからいい」と答える。
「風邪引いたら困りますよ」
 苦笑いを浮かべた菊之助が、自分のマフラーを差し出す。その手元を見た和泉は、軽く息をついた。
「お前が風邪ひくぞ」
 菊之助はコートのジッパーを上にあげながら首を横に振った。
「このコートは首まであるから温かいんです」
 ハイネックが菊之助の口元まで隠したので、彼はどこか得意げな顔をした。
 和泉は、溜息をつきながら菊之助の手にあるマフラーを受け取ると、乱雑に首に巻いた。
「これでいいだろ」
 ぶっきらぼうな和泉の仕草に、菊之助は小さく笑う。

 外に出ると、冬特有の澄んだ空気が二人を包んだ。
 雪が降るほどではないが、それでも頬を刺すようなぴりっとした寒さがある。
 月のない夜空に星が瞬いている。晴れているから寒いのだ。

 吐く息が白い。

 二人は住宅街の舗道を並んで歩き出したが、しばらく会話はなかった。
「和泉さん、こういう散歩は好きですか」
 菊之助が尋ねる。足を進めたままの和泉はちらりと彼を見て、眉を上げた。
「嫌いじゃないよ。でも、珍しいな、お前が外に出たいなんて言うのは」
 その返答に、菊之助は優しい微笑みを浮かべて目を伏せた。
「たまにはこういうのも悪くないと思って」

 ほかに歩いている人は見当たらない。
 時おり、帰宅中らしい車やバイクが通る。
 もう皆が寝静まる時間だ。

 静けさの中で、菊之助が立ち止まった。
「こうして歩くの、俺は好きなんです」
 和泉は足を止め、振り返り、菊之助を見た。その言葉の意図を測るようにじっと視線を向けるが、菊之助はにこりと小さく笑うだけだ。
 菊之助が歩みを再開したので、和泉も何も言わずに彼の隣を再び歩き出した。
「俺、退屈じゃないですか」
 またしても唐突な言葉に、和泉が再び立ち止まる。菊之助も和泉につられて立ち止まった。
「なんだ、それ」
 和泉の声には、ただ純粋な疑問が混じっているだけだった。
 菊之助は考えるように間を置いてから、「真面目すぎるから」と言う。
「仕事でも、足利さんに、お前はときどき肩に力が入りすぎてるって言われます。和泉さんから見ても、きっとそうですよね。俺、自分が真面目すぎるの、よく分かってるんで」

 和泉は、地面に視線を落としている菊之助を見つめた。
 菊之助が自分を貶めるようなことを声に出すのは、とても珍しかった。自信があるとか強気であるとかそういうことではなく、相手に負担がかかるような物言いをすることを彼は普段はしなかった。
 和泉は慎重に様子を窺っていたが、菊之助が寒さのせいで急にくしゃみをしたので、思わず軽く笑った。

「お前が真面目なのは、お前の取り柄だよ」
 踵を返しながら、和泉ははっきりとした声で告げる。

「俺は、そんなお前が隣にいてくれるだけで十分だけどな」
 いつもはなかなか出てこない、素直な気持ちが不思議と口から出て、それは白い息となって空気に溶けて、じんわりと滲むように消えていく。

 和泉さん、という声と共に、足早に追いかけてきた菊之助が、そっと和泉の手を後ろから握った。
 繋がれた手を一瞥して、和泉は菊之助を見た。彼はとても嬉しそうな顔をして、ふふっと、言葉にできない喜びを笑みに変え、和泉の腕に寄り添った。

 ああそうか。
 夜の遅い時間帯は人がいないから、こんなふうにくっついて歩けるんだな。
 菊之助の外出したい意図が本当にその理由からだったのかは分からない。
 しかし、絡まる二人の指は、まとわりつく冷たい空気に、よりいっそう温かく感じられた。

 和泉も笑みを小さくこぼしながら、少し意地悪く言う。
「可愛い奴め」
 するとますます嬉しそうに、菊之助がふふふと笑う。

 冬の夜空に星が瞬く。
 透きとおるような空気の中で、もう少し彼と歩いていようと、和泉は思う。