izkk X限定テキスト 指先 2025.1.12

自分の二次創作中の和菊について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています





 リビングの時計が二十三時を過ぎるころ、部屋には仄かな照明が穏やかな影を作っていた。窓の外では冷たい冬の風が吹いているが、エアコンをつけている部屋は程よく暖かい。
 和泉はソファに腰掛け、新聞を広げていた。だが、その視線は記事に集中することなく、頻繁に隣を伺っている。
 和泉の隣に座る菊之助もまた雑誌を膝に広げているものの、どこか顔色が悪いように見えた。ページをめくる指が止まり、胸元にそっと手を添える動作を何度か繰り返している。
「……おい」
 和泉が新聞の端から顔を覗かせ、ぼそりと声をかけると、菊之助がわずかに肩を揺らした。
「はい」
 菊之助が顔を上げる。微笑みを浮かべているその表情は穏やかだが、和泉はどこかぎこちなく感じた。
「さっきから変だぞ。どこか痛むのか?」
 和泉は注意深く問いかける。視線を受け、菊之助は目を伏せた。
「あ……少し、寒いだけです……」
 一拍置いて返ってきた答えは、和泉には誤魔化しにしか思えなかった。
「寒い? エアコンつけてるのに?」
 和泉が眉をひそめ、手元の新聞を膝の上に放り出す。帰宅してからエアコンを稼働させているのだから、室内は十分に暖かいはずだった。
 菊之助は、追及を避けるように膝の上の雑誌を閉じ、テーブルに置くと、顔を背けて立ち上がった。
「すみません、先に寝室に行きます」
 腰を伸ばし、いつものように和泉へ軽く頭を下げる。その動きには気品すら漂っていたが、足取りには力がなかった。
「おい……」
 和泉が声をかけようとしたが、その背中はすでにリビングを後にしていた。
 新聞を畳み直し、テーブルの上に置くと、和泉は軽く舌打ちをした。
「隠し事かよ」
 呆れたように呟くが、胸の奥には嫌な予感が渦巻いていた。どこか苦しそうに胸を押さえている菊之助――心臓の異常だったらただ事ではない。
「変な病気とかじゃなきゃいいが……」
 自分への言い訳のように呟くと、和泉はゆっくりと立ち上がり、リビングの電気を消した。

 寝室のドアをそっと開けると、菊之助がベッドの端に腰掛けているのが目に入った。スウェット越しに軽く胸元を押さえている仕草には、明らかに違和感があった。
「おい」
 声をかけると、菊之助は和泉の存在に気付いていなかったらしく、はっとしたように顔を上げた。
「和泉さん。もう寝ますか?」
 普段と変わらない声。しかし、その表情にはどこか張り詰めた影が差しているように見える。
「胸を押さえてるよな、さっきから」
 ぶっきらぼうに切り出すと、菊之助は口を開きかけ、すぐに目を伏せた。
「大したことじゃないです」
 和泉は腕を組み、その言葉を聞き流すようにじっと菊之助を見据えた。目には嘘を許さない鋭さを宿す。
 観念したように、菊之助は小さく息を吐いた。
「……冬になると、傷跡が少し痛むだけです」
 和泉の目がわずかに細まる。
「傷?」
 軽く左胸を押さえながら、菊之助は溜息交じりに続けた。
「以前、銃弾が掠めた跡です」
 和泉は数秒間、黙ったまま菊之助を見つめていたが、やがて短く息をついた。
「見せろ」
 簡潔な命令だった。
「そこまでする必要はありません」
 菊之助がたじろぎながら返す。和泉は眉を上げた。
「いいから脱げ」
 結局、菊之助は短く頷き、渋々スウェットを遠慮がちに引き上げた。下から現れた肌には、撃たれた痕が淡く残っている。それは左胸の上部、心臓からわずかに外れた位置に小さく刻まれていた。
 和泉は跪いて無言でその跡に手を伸ばし、指先でそっとなぞった。菊之助がびくっと体を震わせる。顔がみるみる赤く染まり、視線が宙を彷徨った。
 和泉はその様子を見て、薄く笑う。
「今さら?」
 からかうような声に、菊之助は困ったように眉を下げた。
「反射的なものです」
 そう言って視線を逸らすが、その動きはまたどこかぎこちない。はいはい、と和泉は短く流すように言うと、指先を傷跡から離した。
「この傷、な……」
 和泉は、わずかに眉を寄せて身を乗り出すと、銃痕に軽く唇を寄せた。菊之助が再び体を震わせ、顔をさらに赤く染めたまま俯く。
「……和泉さん……」
 小さく呟く、どこか甘い響きを持つ声に、和泉は短く鼻を鳴らす。菊之助は恥ずかしそうに唇を噛み、和泉が離れると、スウェットを元に戻した。
 和泉はベッドに上がり、定位置である菊之助の隣に収まった。同じく布団に足を差し込み中に潜った菊之助に「こっち向け」と低く言う。菊之助が少し戸惑いながらも顔を向けると、和泉はその頬に軽くキスを落とした。
「ん……和泉さん、ちょっと甘やかしすぎです、今日」
 戸惑う声に、和泉は目を丸くして言った。
「俺はとことんお前を甘やかしたいんだけど?」
 言葉に、ますます菊之助の頬が染まる。笑いをかみ殺しつつ、和泉は枕元のリモコンで部屋の明かりを消した。
「寝よう」
 そして布団を引き直すと、菊之助を腕の中に引き込んで、そのまま目を閉じた。もう……と、どこか笑みを含んだ呆れ声が聞こえてきたが、和泉は何も言わず、ただ満足げに微笑むだけだった。