izkk X限定テキスト 冬の夜 2025.1.7
プロットや編集は私、AIには文章下地をまかせています。
冬の夜。
冷え切った空気が寝室を包み込んでいる。
ふと菊之助は目を覚ました。
目の前に広がる暗い天井。ほんのりと灯るベッド脇のスタンドライトの光。
隣で寝息を立てているはずの和泉の気配が、微妙に違うのに気づいた。
身体を横に向けると、和泉はヘッドボードに背を預け、上体を起こして本を手にしていた。ライトに照らされたページをじっと見つめる姿は、一見落ち着いているようだが、どこか普段より力が抜けていない。
「……和泉さん」
名前を呼ぶと、視線がゆっくりとこちらに向く。
「起こしたか」
声は抑えられていたが、和泉のその低音には少し気遣いが滲んでいた。
「いえ、大丈夫です」
菊之助は体を起こし、背中に枕を当てつつ和泉の隣に寄った。暖色の柔らかい光の中で、彼の横顔がぼんやりと浮かび上がる。
「眠れないんですか」
菊之助の言葉に和泉は短く頷き、手元の本に目を落とした。その視線は動いているが、どうも文字を追うだけで内容が頭に入っていないように見える。
「なんだか、足が冷えて」
ぼそりとこぼれた言葉に、菊之助はわずかに眉を寄せた。足の冷えは冬にはよくあることだが、和泉がこうして眠れないほどになるのは珍しい。
「足、ですか」
布団の端を見下ろすが、掛け布団はきっちりと腰まで掛けられている。いつもどおりで特に問題なさそうに見えるが、それでも冷えを訴える和泉の言葉が気になった。
「湯たんぽを持ってきますか? それとも、別の毛布を足元に掛けますか?」
すぐに提案すると、和泉はわずかに顔をしかめ、首を横に振った。
「そこまではいい。大げさすぎる」
断りの言葉の裏には、菊之助への遠慮が感じられた。
菊之助は少し考え込み、それから「ちょっと失礼しますね」と言いながら移動し、布団の端を軽く持ち上げた。ゆっくりと手を差し入れ、和泉の足首に触れる。
「……いいよ、気にしなくて」
和泉が困ったように声を漏らしたが、その動きを止めようとはしなかった。
指先に伝わる肌の冷たさは思いのほか強い。菊之助は手を動かし、足全体を包むようにさすり始める。
「冷えてますね」
そう静かに言葉を落とし、手のひらを滑らせるようにして温めていく。ゆっくり、丁寧を心がけた。
和泉はされるがままになり、しばらくして、ふと息をつくように口を開いた。
「おまえの手は温かい」
どこか感心したようにも聞こえる声に、菊之助は微笑みつつ、手を止めずに答える。
「ありがとうございます」
そのうちに、和泉が本を閉じて枕元に置いた。
「……眠くなってきた」
そう言うと、スタンドライトのスイッチに手を伸ばす。
暗がりが戻り、菊之助の視界から和泉の輪郭が闇に滲んで溶けた。
和泉が布団に潜り込むのを見て、菊之助も自分の定位置に戻る。
すると、布団に入った菊之助を、和泉が腕を伸ばしてそっと引き寄せた。
「おいで」
言葉に抵抗することもなく、菊之助は自然に和泉の腕の中へと身を寄せた。和泉が片腕で菊之助をゆるく包み込む。
「おまえは温かいな。最初からこうすればよかった」
和泉の声が低く響き、菊之助は小さく笑った。
「そう言ってもらえて光栄です」
和泉は少し体をずらし、菊之助の額に優しく唇を落とした。不意打ちの仕草に菊之助は思わず目を細める。
少しの沈黙の後、和泉は言った。
「おまえは俺の腕の中で、本当に安らかな顔をする」
菊之助は顔を上げて和泉を見る。彼の口元には薄く笑みが浮かんでいた。
「え?」
「うん? リラックスしてるなって」
「だって、本当に安心するし。幸せだからです」
素直にそう言い、菊之助はすぐに顔を和泉の胸元にうずめるようにして戻した。
「お。一段と温かくなった」
和泉が軽くからかうと、菊之助は「もう」とだけ言ってさらに深く身を沈めた。
和泉は小さく笑い、「最初からこうすればよかった」と再び呟いた。
「いつでもどうぞ」
菊之助の柔らかな声が部屋に響き、再び眠りへの静寂が二人を包み込んでいった。