クロトン   花言葉は「あなたは妖艶、矯艶」





 後ろから抱きすくめられて首の後ろに何度も口づけをされる。彼が身動きをするたびにくすぐったさが襲い、背筋に震えが走ってどうしようもない。
 大きな二つの手は腹や胸元を這い、時に乳房を揉みしだき、下腹部を撫で回したりしてクリスの快感を煽った。あまりにいやらしい男の行為にたまらず悲鳴を上げれば、こんなことで降参するなど許さないといったふうに、より指先を駆使してクリスのよがる部分を刺激し、無理矢理顔を向けさせて息もできないような激しいキスをしてくる。
 クリスの全身は羞恥と欲望で火照り、触れ合った互いの肌が求めるように吸い付く。どうにかして男の腕から逃れ、一息つかせてもらいたいと願うのだが、長い四肢で檻を作るエルフから解放されることは難しかった。

「ロ、ラン……」

 何か文句でも言ってやりたい。しかし、快感に思考が奪われて何も思いつかない。できることは男の名を息も絶え絶えに呼ぶことだけだ。
 ロランは何も言わずにクリスの髪に口づけを落とし、そのまま首筋に唇と舌先を這わせてクリスに嬌声を上げさせる。もうやめてと掠れた声で訴えても、聞き入れてもらえるはずもなく。

「クリス様」

 耳元で、低い声で呼ばれる。その響きに、この男からはもう逃れられないことを知る。
 押し倒され、覆い被さった男が狙いを定めようとするのが分かった。これから訪れる圧迫感を予測し、思わず男の両肩を押すように撫でつけると、男は驚いたようにクリスを見つめた。
 やっとの思いで最後の抵抗を試みる。

「ロラン。は……恥ずかしいよ」

 それでも「やめてくれ」とは言えなかった。この男のクリスに対する欲望がどれほどのものであるのか、何度も抱かれたことで分かってきたのだ。途中でやめることが男にとって一体どれだけつらいことだと思っているのかと説教をされたこともある。また、クリスが抗ったことでロランの気持ちが冷めてしまうかもしれないと思うと、とてもではないが自分の羞恥を理由にしてこの行為を中断させることなどできなかった。
 ロランは、当たり前です、恥ずかしいことをしているのですからと淡々と言い返し、クリスの入り口に自身の欲望を押しつけた。先端のあまりの熱さに顔を背ける。

「んん……」
「ああ、クリス様。本当にかわいらしい」

 片手でクリスの頬を撫でながら、いたずらっぽく、だがどこか恍惚としている様子でロランは言った。馬鹿、何を言っているんだと突っ返そうとした途端、勢いをつけて中に侵入され、体内を襲う異物感に耐えきれず声を上げた。

「ああんっ」

 奥まで深く入り込み、より深く繋がるように腰を突き出してクリスの両脇に両手を着く。おそるおそる男を見やると、予想通りロランは恐いくらい妖しい瞳で見つめ返し、よがる表情を決して見逃さないといった様子で視線を外さずに、ゆるゆると動作を開始した。
 それは決して気持ちよいだけの行為ではない。普段ないものを受け入れる女の方が、男に比べて遥かに苦しみが大きい。快楽というよりは脚を広げられるしんどさや中をこすられる鈍痛で涙が出てくるが、それよりも自分がくわえ込んだ男を離したくなくて、ぐっと下腹部に力を込める。すると男は苦しげな呻きを漏らしてクリスの名を呼んだ。

「クリス、様。あまり、力を入れないでください」
「うう……でも、思わず入ってしまうんだ」
「動きにくくなります。それに、私もつらい」
「つらい?」

 それは一体どういうことだと聞き返そうとすると、唇で唇をふさがれた。その間にも腰の動きは止まらず、大きな手が太ももの内側を器用になぞってくる。
 無表情の仮面の下にこういった巧みさを持っていることには呆れすら覚えてしまう。きっと女を抱くことが好きで、クリスの良いところを的確に攻めてくるのは才能なのだ。
 自分も彼のような技巧を持っていれば相手を気持ちよくさせられるのに――以前、そんなことをロランにこぼしたら、「クリス様は充分に私を気持ちよくしてくれています」と真面目に返された。自覚がないので怪訝に思ったが、はっきりした答えは未だもらえていない。

「ん、んっ……ああ、ロラン」

 頬や顎に唇を滑らせたり、耳たぶを甘噛みしたりして男はクリスの欲情を煽らせる。興奮しているのは同じらしく、真っ白な肌がほんのりと色づき、呼吸は少し荒く苦しそうだ。いつにない男の姿にクリスの心もくすぐられ、こめかみや首の後ろを撫でつけると、弾かれたように胸元を吸い上げてきた。
 ああ、また印がつくんだ。この男に愛されたという証が。
 男に占有されているという事実にたまらなくなり、もっと奥まで入ってきて欲しい、激しく突いて欲しいと身体にしがみつく。クリスの無言の要望を逃さず、ロランもまたクリスの身体をかき抱き、腰を巧みに使って激しく中をこすり上げた。
 呼吸が乱れ、熱と痛みと快感でいま自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。男の荒い息が肌にかかるたびに求める気持ちが高められてしまい、気がつけば悲鳴のようなあえぎ声を出していた。すかさずロランの手がかろうじて呼吸のできる程度に口を塞いできて、酸素を取り込めない息苦しさがクリスを襲った。

「ロラン」

 動きを早めていく男の耳元で、朦朧とした意識のなかクリスは囁く。

「ロラン、私を愛して」

 返事の代わりだろうか、ロランは何も言わなかったが、クリスの唇に何度も何度も激しく口づけ、いつしか二人は陶酔の光の中に溶けていった。