ヨルガオ   花言葉は「夜、妖艶、罪」





 クリスが油断しているうちに自分を押し進めるのが好きだった。
 彼女があっと悲鳴を上げた時にはもうその温かな入り口に侵入し、互いの身体を繋げている。楔を持つ男のために定められた女の形を充満させ、ゆるゆると動き出すことで、人間の本能が求める強い快感を呼び起こす。

 甘く響く嬌声を聞くのが好きだ。
 普段の端正さが崩れる瞬間を見るのが好きだ。
 自分だけを求めている妖艶な瞳が好きだ。
 もっと欲しいとねだる吐息を感じるのが好きだ。

 ロランもまたクリスの全てを熱烈に求めていながら、その欲求は彼女の方が強いのであると、激情をひた隠し、あえて冷静に振る舞うことで己の優越を保っている。

 私ではない、あなたの方がより強く、私を求めているのだと。
 私ではない、あなたの方が先に、私を求めていたのだと。

「違う」

 脳内で囁く自分の醜い声をロランは咄嗟に否定した。
 クリスが、何?と目を上げて問うてくる。
 何でもないと首を振り、白い首や耳、鎖骨、胸元に口付けの雨を降らせ、己をくねらせて女を突き上げる。
 男の動きに素直に反応する甘ったるい悲鳴に満足しつつ、ロランはひたすらクリスを愛撫し、何度も何度も強く中をこすり上げた。

「クリス様……」

 名を呼ぶと、私もだよと言うように、少し低い声が男の名を呼び返す。
 その、彼女の中にある確かな愛の存在に、ロランは時に泣きたくなった。
 私はこんなにも醜いのに。
 私にはそんな資格はないのに。
 どうして我々は愛し合ったのだろう。

 高まった快感のために余裕が無くなり、息と共にわずかな呻き声を漏らしながら、ロランは最後の突き上げをすると己を引き抜き、彼女の脚に勢いよく吐き出した。
 肩で息をしながら肌をしたたる生々しい欲望を眺め、その汚らわしさに罪悪感を覚える。
 自分は果たしてこれほどまで愚かな男だったろうか。
 女もまた頬を赤くして上半身を起こし、脚に流れる白い汚れを恍惚とした目つきで見た。
 見るな。
 ロランは脇に置いてあった布巾を素早く取り上げ、それをさっと拭い取った。すると彼女は視線を移し、熱情の残滓が残る妖しい瞳で男の顔を見つめた。
 見るな。
 彼女の動作や表情が視界に入らないよう、顔を背けクリスの隣に身体を乱暴に横たえる。
 ロラン、と小さな声で名を呼ばれる。いつもは心地よいその響きも、今だけは男の感情を少し苛立たせていた。