マリーゴールド   花言葉は「嫉妬、濃厚な愛、絶望」





 ロランは嫉妬深いのではないだろうか。しかも、かなり強く。
 あまり気にしたことはなかったのだが、たとえばその日、サロメの話題が多く出たり、他の男性の話をクリスから進んですると、その後の情事が普段より激しくなる傾向があった。こういったことに関して無知なクリスを傷つけないよう、いつもは気遣いながら事を進めてくれる彼だが、何か気に入らないことがあると、クリスが苦しくなるくらい激しい口づけだとか、愛撫だとかを序盤から施してくるのだ。
 従順さが消えた男に恐怖じみたものを覚え、クリスが抵抗しても全く聞き入れてもらえない時がある。もちろん根は優しいので、事後には後悔からか申し訳なさそうに謝ってはくれるのだが。

 今日もまた自覚無しにロランの嫉妬心を煽ってしまったらしく、ベッドに運ばれた直後、両手首を頭の上で拘束され、どこか冷たい目で見下ろされた。一体どこで彼の癪に障ったのだろうかと彼の顔を見つめながら考えていたクリスだが、こういったことにはとことん疎いためどうにも答えが見つからない。身じろぎして手を放してもらおうと試みたものの、本気の目をしたこの弓使いから逃げ出すことは不可能であると経験上分かっていた。
 ロラン、と不安げに名を呼ぶ。彼は返事をせず、そっと身を屈め、クリスの顎に舌を這わせた。生ぬるい感触に小声を漏らすと、その舌は徐々に下に降りてきて、大きく開いたワンピースの胸元をぬるりとなぞった。
 そうこうしているうちに衣服は乱れ、白くたわわな胸が男の前に開放される。彼は視線でクリスの姿を堪能してから、唇で乳房へのいたずらを開始する。
 ここまで来てしまえば、クリスにはもう抗えない。羞恥で耳の先まで赤くなり、吐息が漏れ、背筋に電流が走って身体が自然に反ってしまう。これではもっとして欲しいとねだっているようではないか。
 あまりの恥ずかしさに涙が出てくる。すると気付いたロランがすかさず涙を舐め取り、今度は舌を絡ませる激しい口づけをしてくる。

 疲労感と快感で思考がぼんやりし始める頃、男は自分の昂ぶりをクリスの中に押し進める。
 圧迫感でのけぞる背中を抱き、まるで突き破ろうとするかのように強く何度も突き上げる。
 押し殺せない女の悲鳴と喘ぎで部屋が充満する。男は声を外に漏らさないためその大きな片手で口を覆う。
 己の中にある異物の熱さと呼吸を乱される息苦しさがクリスを襲い、意識が朦朧とした。

 力を失ったクリスの手がベッドの上に横たわる頃、上気した顔のロランがようやく言葉を発した。

「クリス様」

 果てた後の自分の身体を腕で支えながら、手のひらでクリスの頬をそっと撫でる。まるで先ほどの激しさなど思わせない、ひどく優しい手つきで。

「申し訳ありません」

 ほらやっぱり謝ってきた、とクリスは呼吸を整えながら男を睨んだ。

「謝るくらいなら激しくするなよ」
「すみません」

 やや恐縮そうにしているが、自分は悪くないという気持ちの方が勝っている口調だ。こういった点に関しては自尊心が強い男である。
 クリスが身体をずらすと、ロランはそこにほとんど倒れ込むような形で寝そべった。彼もまたかなり疲弊しているらしい。

「もう……なんなんだ、お前は」

 汗で額に貼りついた髪を掻き上げつつ、問う。ロランは「申し訳ない」の一点張りで、理由を話そうとはしなかった。代わりにクリスの腹や腰を労るようにゆるゆると撫でてくる。
 正直、あれだけ激しくされると明日一日身体が痛いんだけどなと胸中で嘆息しつつ、ロランの懐に身を寄せ、小さくなった。

「なんだか、私も少し慣れてきたな」
「そうですか?」
「基礎は学んだ感じがする」

 言葉に、ロランがくすりと笑う。

「基礎ですか。そもそもこういったことの基礎が何なのかよく分かりませんが……」
「まあ、私はお前しか知らないがな。その方が良いだろう? 私がお前の常識の中にあり続ける方が」

 ロランに視線を移すと、真剣な瞳がクリスを見つめていた。彼は少し沈黙した後、クリスの身体を腕で引き寄せ、小さな息をついた。

「……私から言えることは、何も」
「ああ……そうだな。お前は、そうだ」

 彼はどんなに強い独占欲や嫉妬心を抱いても、その原因が具体的に何なのかを説明したがる男ではない。ただひたすら態度で、身体で知ってくれと訴えるのだ。
 お前は意外に厄介だなとクリスが溜息混じりに呟く。厄介で結構ですと強気に返してくるロランもまた、小さく苦笑いしているようだった。