akam DESIRE2 2026.4.29
自分の二次創作中の赤安について学習させたAIに、プロットに対して執筆作業において下地のみを任せ、私が更に加筆修正等の細かな編集を行っています。無断転載等はおやめください。
※掲載時点でpixivに掲載している連載「熾火」(連載は終了しています)の内容を一部含みます
焼き鳥屋の暖簾をくぐると、炭の匂いがむわりと立ちのぼった。煙は天井近くに溜まり、壁に貼られた短冊の影を揺らしている。店内はほどよく混み合い、カウンター席は肩が触れ合うほどではないが、互いの体温が感じられる距離だった。
降谷は上着を椅子の背に掛け、迷いなくビールを頼む。風見もまたビールを選んだ。仕事の延長線上にいる感覚が抜けきらないのか、あるいは無意識に保っているのか、ジョッキを持つ手つきはいつも通り整っている。
「珍しいですね、明日も仕事なのに」
嫌味にならないように気をつけながら風見が言うと、降谷は肩をすくめた。
「たまにはな。今は少し余裕がある」
不思議と重たい案件が重なっておらず、余裕があるのは風見にも事実だった。忙殺されている時期に酒を入れようとする降谷は、静かに荒れる。言葉が鋭くなり、思考が内向し、冗談ひとつ挟まない。飲みに誘われると、少し気が引けることもある。それを知っている風見は、今夜の柔らかい声色に内心ほっとしていた。
焼き台の前で串が返され、脂が落ちる音が弾ける。最初の皿が出てくると、降谷は躊躇なく手を伸ばし、ひと口かじった。ビールを流し込み、満足そうに息をつく。その横顔は、職場で見る厳格な上司のそれとは少し違う。頬に赤みが差し、目元はふんわりとしている。
風見は串から鶏肉を外し、皿にぽとぽとと落とす。
そのときふと、試すような気持ちが芽生えた。今なら聞けるかもしれない。
「降谷さんは――」
箸を止めずに続ける。
「赤井さんの、どんなところが好きなんですか」
言葉は穏やかだが、内心では身構える。
再び焼き鳥を口に含んだ降谷は、「えー?」とあまり聞きなれない声を漏らし、ジョッキを持って視線を天井へ向けた。頬の赤みが少し濃くなる。考える仕草がどこか幼く見えて、風見は思わず心の中でおっと声を上げた。上司のこんな顔は、普段あまり見られない。
降谷はしばらく黙って咀嚼していた。炭火の香りが漂い、隣席の笑い声が弾ける。
やがて食べていたものを飲み込むと、ぽつりとこぼした。
「全部かな」
あまりにも率直で、風見は一瞬言葉を失う。
「全部……ですか」
純粋に理由を知りたかった。からかいではない。
降谷は箸先でお通しの煮物をつつきながら続ける。
「強いところも、面倒なところも、理屈っぽいところも。ああ見えて、ちゃんと周りを見てる奴だ」
すらすらと言いながら、ジョッキを持ってビールをもう一口飲む。
「あいつは僕のことを過大評価もしないし、過小評価もしない」
声は穏やかだ。酔いが回っているはずなのに、言葉には妙に芯があった。
「実力も申し分ない。僕の対等に立ってくる。容赦なくな」
鼻を鳴らして笑う。その笑みには苛立ちも混じるが、それ以上に楽しさがあるようだった。
「それに、腹が立つくらい正直だ。言葉がまっすぐというのか? でも、平気で嘘をつくときもある。僕に対してはあまり器用じゃないように感じるけどな」
風見は黙って聞く。炭のはぜる音が会話の隙間を埋める。
「あと……」
降谷は少し考え、
「僕が弱っているときは、やたらそのことに気づくかもしれない」
言ったあとで、自分の言葉に気づいたのか、軽く咳払いをしている。
おそらく、そこが核心なのだろう。風見は目を伏せた。
過去の病院の光景と、絶望した降谷の顔が脳裏をよぎる。あのとき、赤井は気づいていた。気づいたうえで、突き放した。
「……でも、それは危うさでもあるのでは」
おずおずとした問いは真面目なものだ。降谷は、軽く首を傾げた。
「まあ、そうだな。結果、あいつは僕を振り回すし」
まるで当然のような言いぐさだった。
風見は、自分の中にもやついたものがあるのを感じながら、続ける。
「嫌じゃないんですか、そういうの」
「嫌だったら、とっくに切ってるさ」
即答だった。
「そばにいると面倒なやつだ。何を考えているかわからないから腹立つし、こっちの気も散るし。でも、あれこれ振り回されてると、なぜか、自分が生き生きしてる気がするんだよな」
その言葉は、炭火の煙の中でゆっくりと形を取った。
風見は箸を皿に置き、ビールを口に含みながら考える。目の前の上司は頬を赤らめながらも、どこか満ち足りている。忙殺されている時期の険しさはない。もしかしたら、今初めて目撃する温和な表情かもしれなかった。
「……全部、というのは」
あえてもう一度確認する。
「欠点も含めてという意味ですか」
降谷は目を丸くして、小さく笑った。
「欠点。そうだな。遠慮しないところも、取り繕わないところも」
言いながら、少し視線を落とす。
「勝手だし、説明不足だし、返信は遅いし。でも、肝心なときだけは外さない。それがなくなったら、ただの優しい男でつまらんよ」
炭火の赤が、降谷の頬の熱と混ざる。
降谷はもう一本串を取り、軽く噛みちぎった。風見は箸を取り上げ、串から外した鶏肉を口に含む。
目の前の上司は、確かに少し酔っている。だが崩れてはいない。仕事で見せる冷徹さとも違う、無防備とも違う、ただ素直な態度なだけだ。
「……赤井さんは、面倒な人ですね」
いろんな感想が渦まいた結果、つい本音がこぼれる。
降谷は目をしばたたかせ、くすくすと笑った。
「面倒だけどね。それでいいさ」
店内の喧騒が一段高まる。隣席のどっとした笑いが耳にうるさく感じる。
風見はため息をついた。
全面的に応援することは、きっとこれから先もできない。あの男を完全に信用することもないだろう。だが、目の前でこうして笑っている降谷を見れば、否定する理由は探せない。
煙がひとしきり流れ、隣席の笑い声が落ち着いた頃、降谷が、ふと思い出したように箸を止めた。
「いけない。大事なことを忘れてたな」
酔いが気分を良くしているのか、語尾は引き続き柔らかい。
風見はジョッキを置いて隣を見る。
「はい?」
降谷は真面目な顔で人差し指を立て、まるで本当に重大事項を追加するかのように言った。
「外見が好み」
風見は瞬きする。降谷はどこか得意げに口角を上げていた。
「純粋に目の保養だ」
にこにこしている。仕事場ではまず見ない、屈託のない笑顔だ。頬は相変わらず赤く、目尻は下がっている。店内の明かりが、その表情をさらに柔らかく照らす。
「タバコは吸いすぎだし、酒も飲みすぎだし、顔色はいつも悪いが、それでも地がいいからな」
満足そうに頷く。まるで当然の結論に到達した研究者のような顔だった。
風見は言葉を失う。
目の前にいるのは公安の責任者だ。冷静で、計算高く、状況を俯瞰する人間だ。
それが今、焼き鳥屋の煙の中で、好きな男をひたすら褒めている――否、男の恋人であることにのろけている。
酔っているからこそ出る本音なのだろう。とても楽しそうだ。無防備で、上機嫌で、まるで年相応の青年のように見える。
「そうですか」
風見は半ば呆れながらも、肯定するしかなかった。
なあ?と降谷は風見を見て、微笑む。
「外見は重要だろう? 視界に入るものの質は、精神衛生に直結する」
もっともらしい理屈を添えるあたりが、結局、降谷らしかった。
誰が見ても完璧すぎる男が、別の人間の全部が好きだと言えるほどの恋をしている。
理屈と感情が同じ方向を向いている――そう、降谷零は、赤井秀一に恋をしているのだ。
「まあ、ほどほどになさってくださいね」
それが今の自分に言える最大限だった。
降谷は頷き、「善処する」とだけ愉快そうに言って、またぐいとビールをあおった。